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●生演奏は耳からだけではなく全身で感じてほしい

N響（エヌきょう）の愛称で親しまれているオーケストラ、NHK交響楽団は、港区高輪にある演奏所を拠点に活動しています。港区内でのコンサートや、次世代の子どもたちに音楽に親しんでもらうため小・中学校に出向いて行うKissポート財団主催の演奏会「学校音楽等芸術教室」など、地域での活動も定期的に実施。N響主催で、近隣の保育園園児を演奏所に招いて演奏会を開催したこともありました。
「子どもたちには演奏所にあるものすべてが珍しく、『わーっ』と歓声をあげて大喜びでした」とヴィオラ奏者の中村洋ひろ乃の理りさん。演奏会では動物をテーマとした曲なども選曲。「猫の鳴き声を楽器で演奏する『ワルツィング・キャット』という曲では、どんな動物を表現しているのかを想像しながら聴いてもらいましたが、とても真剣に聴いてくれました」。
N響では、クラシックの生演奏に触れる機会の少ない全国の小中学校を訪れて演奏会を行う「NHKこども音楽クラブ」の活動も行っています。こうした出張演奏会では、「演奏者と聴き手の距離が近いのが魅力」と洋乃理さんは語ります。「子どもたちに『好きな場所に動いてもいいよ』と伝えると、自発的に私たちの足元まで近づいてきてくれることも。音は床の振動からも伝わるので、全身の感覚を使って音楽を楽しんでもらうことができます。子どもたちにとっては、有名な曲かどうかは関係なく、少し難しいバルトークやストラヴィンスキーのような近代音楽も素直に楽しみ、感じたままを表情や態度で表現してくれるので、演奏している側も楽しいですね」。

●型にとらわれない音楽体験が豊かな感性を育む

音楽を通じて、子どもたちに伝えたいことは？ という問いに対して、「やはり、『生』の音楽に、たくさん触れてほしい、と伝えたいですね」と洋乃理さん。「今は、音楽はインターネットで手軽に聴くことができ、好みの曲をコンピュータが選択してくれるサービスもあります。でも実際にコンサートに足を運ぶと、思わぬ曲や楽器にも出会うことができ、ほかのお客様の反応を見ることもできます。何より、どんなに高価な音響機器の音も、生演奏の音にはかないません」（洋乃理さん）。また、同じくヴィオラ奏者の中村翔太郎さんは、「『NHKこども音楽クラブ』の演奏会でよく子どもたちに伝えているのは、音楽は最初に『こういうもの』と決めつけず、まっさらな気持ちで自由に聴いてほしいということ。なんでもそうですが、型にはめてしまうと新鮮さを失い、つまらないものになってしまいます。音楽を含めていろいろなことをたくさん経験して、感性を豊かに育んでほしいですね」と語ってくださいました。

●心にやさしく響くヴィオラの魅力をもっと広めたい！

2月にはヴィオラ奏者5人によって、子どもから大人まで楽しめるアンサンブル・コンサート「NHK交響楽団メンバーによるヴィオラ五重奏コンサート」を開催予定。翔太郎さんが長年あたためてきた企画で、ヴィオラだけの演奏会はN響では初めてのことであり、全国的にも珍しいといいます。ヴィオラはヴァイオリンよりひと回り大きな弦楽器で、楽器一つひとつに個性があり、音色も異なります。
「ヴィオラは、人の声に近く、心にスーッと自然に入り込むようなやさしい音色です。コンサートでは演奏者のトークもあります。私は、演奏者の声と演奏する楽器の音に微妙な共通点があると感じていますが、その点にも注目してほしいですね」と翔太郎さん。「ヴィオラを知ることで、オーケストラをいろいろな角度から聴けるようにもなると思います」と参加メンバーである洋乃理さんも語ります。
オーケストラの中でヴィオラは、おもに伴奏、ときには主旋律と、必要に応じてさまざまな役割をこなします。コンサートの参加メンバーは皆、周囲から求められることに瞬時に対応するのが得意で、いわば究極の「縁の下の力持ち」ばかりだそう。そんな愛すべきキャラクターが揃うと、どんな化学反応が起きるのでしょうか。「最高に楽しく、発見の多いコンサートになるはずです。これを機にヴィオラファンが増えてほしいですね！」（翔太郎さん）。