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三味線 野澤 錦糸(のざわきんし)さん

三味線弾きはお腹で浄瑠璃を語り、
大夫の半歩先を水先案内する

大夫が語る浄瑠璃に合わせ、ときに激しく、ときに繊細な音を響かせる三味線。「文楽の三味線はヘビー級です」と言う野澤錦糸さんにお話を伺いました。

――錦糸さんがこの世界に入ったきっかけを教えてください。

偶然だったんです。もともと三味線弾きにあこがれていて、何かないかと探していたら文楽の研修生募集ってのがありまして。実際やってみると、文楽の三味線はただの伴奏じゃないんですね。大夫が語っている中に三味線が入っていって、なおかつ語っている内容を生かすように演奏するわけですよ。ドラマを大夫と三味線で作るんです。それがわかってくると、奥が深いなあと思いましてね。

――大夫の語りと三味線弾きの関係は?

三味線は大夫のちょっと先を行くんですね。大夫の語りが後から来る。竹本住大夫師匠からは「懐中電灯で足元を照らすような三味線じゃないと駄目だ」って言われます。暗がりを歩く大夫の半歩先を、次ここですよ、今度はこっちですよって照らしてくれたら、大夫はその通り行けばいいって。水先案内ですよ。それで、ときには「危ない」って抱き止めたり「行きまっせ」って一緒に走ったりもします。野球で言うと、大夫がピッチャーで三味線はキャッチャーでしょうか。

――音へのこだわりみたいなものはありますか。

ありますあります。人間の喜怒哀楽すべてを浄瑠璃で表現していく中に、三味線が入る。基本の節は決まっていても、この場合にそれをどう演奏するのか。この音はこういうつもりで弾いてるっていうポリシーが無かったらいけませんよね。語られている言葉の裏側までわからないと駄目です。本心なのか腹の中に一物あるのか、それを匂わすべきか見せない方がいいか。つまりお芝居なんです。いい音させるんじゃないんです。常にお腹の中で浄瑠璃を語って、追っかけているんです。そうやって演奏していると、だんだん深みのある芸になるんじゃないかと思うんですよ。

三味線の解説──大夫が使う太棹(ふとざお)三味線とは?
・太棹三味線は、その名の通り棹も糸も太く、それに合わせて胴も駒も大きく重くできている。
・皮は公演中に激しくバチを当てて破れることもある。
・駒は皮を押さえる重しの役割をするもの。駒の重さによって音色も変わる。
・バチも大きく、その分、音色も重厚な響きだが、力任せでなくコツで演奏できる。

連載コラムにて「伝統芸能の今を知る 文楽」掲載中です。こちらも合わせてお楽しみください!

野澤 錦糸さん 写真

■プロフィール
昭和32年東京生まれ。1976年(昭和51年)国立劇場文楽第3期研修生として文楽の世界に入る。四世野澤錦糸に師事し、平成10年五世野澤錦糸を襲名。研修生出身では初の名跡(みょうぜき)襲名が話題となる。平成8年より、人間国宝・竹本住大夫の相方を務める。

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