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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
声楽家 八木 寿子さん

声楽家

八木 寿子 さん

恩師とともにサントリーホールで心に響く第九を歌い上げたい

9月22日にサントリーホールで開催される「Kissポート財団設立20周年記念 フレッシュ名曲コンサート 第25回Kissポートクラシックコンサート」では、チャイコフスキー「ロココ風の主題による変奏曲」と、ベートーヴェン「交響曲第9番ニ短調『合唱付』」が演奏されます。アルトを担当する声楽家の八木寿子さんに、音楽との出会いやコンサートについて伺いました。

声楽家を目指したきっかけを教えてください。

実は小学校低学年ぐらいまで、人前で歌うのがすごくイヤで。4~5歳からピアノを習っていたので、音楽そのものは好きだったのですが、たぶん恥ずかしかったんでしょうね。それが小学校5年生の時、姉が通っていた中高一貫校の音楽会で、音楽部のお姉さんたちの歌を聴いたらものすごく上手で衝撃を受けました。しかもミュージカルみたいなこともやっていて、すごいなぁと。
それでガラッと気持ちが変わって。人前に出て歌うのが楽しそうに思えて、自分もやりたいと地元の児童合唱団に入って歌い始めました。それから姉と同じ学校に進学し、音楽部で歌っていたところ、声楽の道に進んでいた先輩が私のソロを聴いて、「声楽をやったら」と勧めてくれて。それで私も福岡の大学から、先輩と同じ京都市立芸大の大学院に進学しました。いつまでも親に負担はかけられないので、バイトをして一人暮らしの費用を貯金してから進学した思い出があります。

神戸市混声合唱団に所属して神戸を拠点に活動されていますが、2011年「東京音楽コンクール」の声楽部門で第1位を受賞して注目されましたね。

コンクールはあまり気負うと結果が出ない、というジンクスがあるので、マイペースで自分らしい演奏ができれば、と思って出場したのですが、やはりコンクールには独特の緊張感があって。本番では全然納得いく演奏ができず、楽屋で落ちこんでいたので、結果発表で1位と言われ、名前を呼ばれた時には、もう本当にびっくりで。しばらく実感が湧きませんでした。

受賞後はさらに、活躍の幅も広がりましたね。

そうですね、受賞してからすごく変わりました。大学院卒業後から、日本で唯一の、自治体が作ったプロの合唱団である神戸市混声合唱団に所属して神戸を拠点に活動してきましたが、ありがたいことに受賞後は全国的な活動も増えてきています。神戸市混声合唱団の仕事とあわせて、しっかりやっていきたいと思っています。

お忙しくなると、声楽家は体力作りや健康維持が大変そうですね。

まず大変なのは、体調は絶対に崩せないということです。冬場等に風邪をひいてしまうと、本当にヘタをすると仕事ができないということになってしまうので。とにかく予防に気をつけています。それから身体のことでは、お風呂あがりに毎日ストレッチをしています。最初は歌のためではなくて健康のために始めたのですが、結果、歌の声も出しやすくなるということがあって。そういった体のメンテナンスって大事だなと実感しています。

語学の勉強も大変そうですが、何カ国語、学んだのですか?

クラシックのオペラや歌曲はいろいろな言語で歌います。イタリア語、ドイツ語、フランス語、あと、ロシア語の歌曲も歌ったことがありますね。文法も異なるのでそれぞれ難しいのですが、できるだけ自分の言葉として把握できるように心がけています。どの言語でも、まず何を歌っているのかという内容を調べて、歌詞や資料を読み込んで、自分の心からの言葉になるまで、どの言語も勉強するようにしています。

声楽では、オペラ等役の演技や表現も見どころです。八木さんは、豊かで幅広い表現も評判ですが、そうした役作りはどのようにするのでしょうか。

実際に劇場に足を運ぶのはもちろんですが、さまざまな歌手のCDやDVDを鑑賞して、解釈の可能性を探っていくということをするのが好きなんですね。いろいろな歌手の演奏を聴くと、こんな歌い方もあるんだ、ということがよくわかります。とにかくありとあらゆるCDやDVDを見たり聴いたりしながら勉強しています。

好きなジャンルはありますか?

オペラももちろん好きですが、ジャンルでは歌曲(独立した声楽曲)の分野ですね。中でもドイツ歌曲(リート)がすごく好きです。ドイツ歌曲の魅力は、音楽というかメロディーでしょうか。歌とピアノ2人で演奏するんですけど、ピアノも決して伴奏としての位置づけではなく、ピアノはピアノ、歌は歌でそれぞれの役割を果たしていて。そうした歌とピアノのアンサンブルが、すごく魅力的なのだと思います。

八木さんのパートはメゾソプラノですが、アルトも担当されますね。

私はメゾソプラノという声域で活動していますが、そうした声域は、自分の声の中でどの音域が一番魅力的か、ということで分けられると思っています。アルトと表記されることもありますが、アンサンブルにおいてのアルトパートを担当している、という認識です。
メゾソプラノは、ソプラノの歌手の方のように、可憐な役やお姫様のような華やかな役が少ないのがちょっと寂しいですが、逆に年を取った女性だったり、妖術使いや魔女みたいなクセのある役ができます。オペラによってはメゾソプラノが男性役を担ったりすることもあるので、そういう面ではすごく幅広いし、魅力的で楽しいパートですね。

いろいろな表現ができて楽しそうですね。

そうなんです!

東京に来られることも増えていると思いますが、港区にはなにか思い出がありますか?

港区は、やはり今回演奏させていただくサントリーホールですね。私、世界的に活躍されているメゾソプラノ歌手の藤村実穂子さんが大好きで、よくコンサートに行くのですが、昨年2月にその藤村さんのコンサートをサントリーホールで聴きました。ものすごく楽しかったので、今回、同じ舞台に立てるのは感慨深いし、本当に楽しみです。

それでは、今回のコンサートの聴きどころを教えてください。

私は第二部でベートーヴェンの交響曲第9番を歌います。共演のソプラノの森麻季さん、テノールの福井敬さん、バリトンの福島明也さんは、声楽界を牽引してきた日本を代表する歌手の方々。うれしい以上に、私で良いのかと戸惑ってしまうくらい。特に、バリトンの福島先生は京都市立芸大の時の先生で、オペラの授業等で大変お世話になりました。卒業して10年たって、こういう形でお会いできるのは、本当にうれしいです。

先生に恩返しするような舞台でもあるんですね。最後に、メッセージをお願いします。

私が歌う上で心がけているのは、自分に妥協せず、聴いてくださる方の心に響くよう歌うこと。第九のアルトで大事なのはほかのソリストとのアンサンブル。ほかのパートに比べると地味な印象かもしれませんが、ハーモニーの核を担う役割があると思いますので、豪華なソリストの皆さんに気後れしないよう、そして皆さんの心に響くようにしっかり頑張ります。ぜひ、楽しみに聴きにきていただければと思います。

プロフィール

八木 寿子さん

八木 寿子(やぎひさこ)
福岡県生まれ。2001年、福岡教育大学教育学部卒業、05年京都市立芸術大学大学院音楽研究科声楽専攻を首席で修了。06年第17回友愛ドイツ歌曲コンクール第1位、並びに文部科学大臣奨励賞、日本R.シュトラウス協会賞受賞。08年には初のソロ・リサイタル。2011年、第9回東京音楽コンクール声楽部門第1位を受賞。現在、神戸市混声合唱団団員。