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港区探訪

港区の偉人

第11回 根津嘉一郎(かいちろう)(政治家・実業家)(1860~1940)

「世の中で独立独歩ほど尊いものはない。
人の世話をするとも人の世話にならないと云ふ心懸けが大事である」

「世渡り体験談」より

山梨県で自由民権運動に関わり、村会議員・県会議員を務めたのち、甲州財閥と呼ばれる実業家集団を形成。東武鉄道や南海鉄道等の経営に携わり「鉄道王」と呼ばれる。そのほか数々の企業の経営を再建した。

根津嘉一郎(かいちろう)(政治家・実業家)

甲斐の豪農の家に誕生
人の上に立ち、慕われる「ガキ大将」

根津嘉一郎は、1860年、甲斐国山梨郡(現在の山梨県山梨市)の豪農の家に生まれました。生来負けず嫌いで、何をするにも総大将にならなければ気が済まない「ガキ大将」でしたが、兄とともに通っていた寺子屋では積極的に学び、時には師匠に代わってほかの子に教える等、仲間からも慕われるリーダー的存在でした。

成長した嘉一郎は軍人を志し、20歳のとき士官学校に入学するため家族に無断で上京します。しかし、年齢制限を超えていたため入学できず、漢学者の馬杉雲外、古屋周齋の塾で書生として学びました。

根津嘉一郎生家(現・根津記念館)

キーワード:書生時代

甲州出身で武田信玄を敬愛する嘉一郎は、書生時代、上杉謙信をひいきするほかの塾生と大激論のあげくに取っ組み合いになったという逸話が残されています。

地方議会での活躍
相場師から実業家の道へ

3年間の書生生活を経て帰郷した嘉一郎は、当時自由民権運動が盛んだったこともあり、政治運動に関わっていきます。政治団体を結成して集会を開き、弾圧を受けたこともありました。1889年、父が隠居すると、病弱だった兄に代わり根津家の家督を相続。県内で1、2を争うほどの大地主となった嘉一郎は、土地の経営とともに地方政治にも参加します。住んでいた平等(ひらしな)村の村会議員をはじめ、同村村長、山梨県会議員を務め、豪胆な政策で手腕を振るいました。

県会議員在任中、嘉一郎は若尾逸平、雨宮敬次郎といった実業家と知り合います。「株を買うなら『乗りもの』と『明かり』だ」という若尾の助言を受け、嘉一郎は鉄道株と電灯株に投資し財を築きました。1896年には兄に家督を譲り、東京に居を構えて投資活動に没頭します。しかし増益は長くは続かず、より堅実な事業に専念すべく、相場師から実業家への転身を決意しました。

キーワード:甲州財閥

若尾逸平・雨宮敬次郎ら、嘉一郎を含む甲州出身の実業家グループを「甲州財閥」と呼ぶことがあります。鉄道、ガス、電気、銀行、製紙、保険等幅広い事業を手がけ、財界の一大勢力となりました。

東武鉄道の再建に成功
経営理念は「内に消極、外に積極」

実業家としての嘉一郎が最も力を注いだのは、東武鉄道の経営再建です。保有株式をわずか160株から2万株に増やし、経営に携わるようになったのです。再建にあたり嘉一郎が重視したのは、「内に消極、外に積極」、つまり徹底的な経費削減と経営拡大でした。消耗品や光熱費の無駄を省き、役員報酬を抑えて株主に還元。そして鉄道の延長や運転本数の増加といった積極経営で増収に成功しました。さらに、観光産業の活性化のために日光の交通を充実させる等、路線全体での発展をめざしました。

完成した利根川橋梁(1913年・東武博物館提供)

キーワード:ボロ買い一郎(買いちろう)

倒産寸前の会社の株を取得し、つぎつぎと再建した嘉一郎。その手腕は見事なものでしたが、周囲から『ボロ買(嘉)一郎』と揶揄されることもありました。

寄付活動を通して社会に貢献
古美術品のコレクションを公開

精力的に事業を続けた嘉一郎ですが、一方で社会貢献にも熱心でした。1909年、視察団の一員として渡米。大富豪ロックフェラーと会談し、公共事業に財産を寄付するという考えに感銘を受けます。帰国後、故郷である山梨県内の小学校にピアノやミシンを寄贈したほか、学校の設立や橋の建設等、事業で得た利益を社会に還元しました。寄贈された物品は現在も「根津ピアノ」「根津橋」として語り継がれています。

また、「青山(せいざん)」の号で茶の湯を嗜(たしな)んでいた嘉一郎は、古美術品の蒐集家としても名を馳せていました。アメリカ訪問の際に日本の古美術品が欧米に売却されている現実を知ると、より一層蒐集(しゅうしゅう)に力を入れるとともに、若い頃から集めていたコレクションの公開も決めました。

1940年、嘉一郎は病気のため亡くなりますが、息子の藤太郎(のちの二代目根津嘉一郎)がその遺志を受け継ぎ、南青山の根津邸跡に「根津美術館」を開館。「鉄道王」が残した貴重な美術品の数々を展示しています。美術館は今秋開館75周年を迎えます。

現存する「根津ピアノ」(甲斐市立双葉東小学校)

偉人の足跡

根津美術館

国宝7件、重要文化財87件を含む7,400点以上のコレクションを展示。9/15(木)~10/23(日)まで「コレクション展 中国陶磁勉強会」を開催しています。

写真

港区南青山6-5-1
東京メトロ「表参道駅」より徒歩10分

参考:「ライフスタイルを形成した鉄道事業」(芙蓉書房出版)「日本の鉄道をつくった人たち」(悠書館)