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連載コラム

すごいぞ!富士山

第六回(最終回) 富士山と銭湯

富士山が描かれている有名な絵と言えば、葛飾北斎の「冨嶽三十六景」や歌川広重の「冨士三十六景」でしょう。
江戸時代に活躍したこの二人の作品に代表されるように、絵画の題材としても富士山は多くの作品に取りあげられています。
その一方で、実際に見たことはなくても、本や昔の映像等から銭湯の壁に描かれた富士山の絵を知っている人は意外に多いのではないでしょうか。
この連載の最終回では、富士山と銭湯について紹介します。

ペンキ絵の歴史

銭湯の浴室にペンキで描かれた壁画のことを「ペンキ絵」と言います。ペンキ絵は主に関東が中心で、汚れ等のため定期的に塗り替えが必要なのに対し、補修の必要のない「タイル画」は関西に多く見られます。

ペンキ絵は大正元年(1921年)に神田猿楽町の銭湯「キカイ湯」の主人が、子どもたちに喜んでお風呂に入ってもらおうと、静岡県出身の画家、川越広四郎氏に依頼したのが最初です。このペンキ絵に描かれたのが富士山だったと言われ、これが評判になり、東京中の銭湯にペンキ絵が広まりました。

ペンキ絵の下のスペースには、近所の商店や病院等の広告が入り、広告塔としても活用されたようです。

イラスト

銭湯の中の富士山

富士山が銭湯の壁に描かれることが多い理由は、富士山の下に描かれている湖や海の水が、湯船の湯につながっていくイメージや、「末広がり」の形が縁起がよいとして、人気を呼んだとも考えられます。
逆にペンキ絵に向かないと言われるのは「(お客が)去る」につながる「猿」や「落ちる」につながる「紅葉」、「沈む」を連想させる「夕日」等です。

富士山の絵が男湯と女湯の両方にあることは少なく、男湯が富士山だったら、女湯は別の絵になるのが一般的です。ただし、次の描き換えのときは女湯が富士山になり、男湯が別の絵になることが慣例だそうです。

広い銭湯の湯船につかり、湯気の中に浮かぶ富士山をながめながら、心も体も温めるのは冬の小さなぜいたくと言えそうです。

イラスト

参考図書:『富士山を知る事典』富士学会 企画/渡邊 定元・佐野 充 編、『風呂屋の富士山』町田 忍+大竹 誠、『NHK美の壺 銭湯』NHK「美の壺」制作班 編