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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
千住 真理子さん

ヴァイオリニスト

千住 真理子 さん

メンデルスゾーンの名曲を無心に聴いていただきたい

1月7日にサントリーホールでKissポート財団設立20周年を記念し「Kissポート20 thアニバーサリー・コンサート」が開催されます。
このコンサートでヴァイオリンを演奏する千住真理子さんに、コンサートの聴きどころやヴァイオリンについてお話を伺いました。

今回演奏されるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲 ホ短調作品64は美しく耳慣れたメロディーから始まる名曲ですが、この楽曲の魅力や聴きどころを教えてください。

初めてこの曲を弾くようになったのは小学校5年のころでした。なんと幻想的な美しさだろう、と子どもながらに感動しました。当時一緒に住んでいた祖母がその時にこんな話をしてくれました。
「スイスに旅をして湖畔を見た時、その美しさに、死んでしまいたいと思ったものよ。その湖畔を思い出すわ」
その時から私にとってこの名曲は「死んでしまいたいくらい美しい風景」を思い起こさせます。
皆さまに、ただ無心に耳を傾けていただきたいと思います。

この曲を演奏する時、心に留めていること、また曲にまつわる思い出やエピソード等がありましたら教えてください。

弾くたびに、新鮮な感動を私に与えてくれるのがこのメンデルスゾーンです。
祖母の話をいつも思い出しながらも、大人になるにしたがって私の中には、美しいだけではない感情がこの曲に生まれました。それは切なさ、哀愁、力強さ、躍動的なエネルギー等です。
ヨーロッパデビューしたのもこのメンデルスゾーンでした。
かの巨匠、故ジュゼッペ・シノーポリは私に「このメンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルトは、ミクロでありマクロなのだ」と…つまり緻密に大胆に、そんな世界をイメージしながら弾きます。

千住さんがお持ちのヴァイオリン、ストラディヴァリウスの「デュランティ」は、約300年もの間眠っていたそうですね。どのようにして楽器を目覚めさせたのでしょうか。

ずうーっと眠っていた楽器なので、さすがに最初は難しい数年間でした。音そのものは出るのですが、コントロールがきかない、暴走する、私の思い通りにならない、楽器が自分勝手に音を鳴らす、そんな感じでした。最初の5~6年はそんな具合だったために弾く曲も楽器がその時鳴りやすい曲、を選んだものです。まず朝から弾きこんで数時間、夜になるころやっと音がまとまりますが、逆に私のほうが疲れてぐったりへとへと…しかし今ではやっと、ツーカーの仲に!私の体の一部であり、血が通ってるほどに感じます!

お母様の文子さんは教育評論家として子育てや教育についての本も書かれていますね。お母様から受け継いだことの中で、最も大切にされていることは何でしょうか。

最も大切なことは「自分自身、常に感動する心を持つこと」、それを母から教わったように思います。
気がつくと、忙しさにまぎれ、繊細な感性に蓋をしてしまいがちです。しかし母はどんなに忙しい中にも、感動する心、すなわちそれは思いやる心だと言っていました。
人を思いやる、動物を思いやる、草花を思いやる、そういう感性を失ったら音楽をやる資格なし!と言われて育ちました。

立派なお母様だったのですね。

母は、木の葉が一枚落ちても涙を流す人でした。
毎日、人の言葉に共感して泣いたり喜んだり、喜怒哀楽が激しい時もたびたびありました。それは物事に真正面から向き合っていることの表れだと思います。はすに構えず、正直に感じとる、受け流さない、そんな姿勢が感性を磨くのだなと感心したものです。
そして最期まで、末期ガンが進行した身体で、母はベッドに横たわって外を眺めながら「窓の外に見える痩せ細った一本の木が、けなげだわ」と涙を流していたのを思い出します。

幼いころからヴァイオリンを弾いてきた中で、大きな転機等はありますか。

20歳でヴァイオリンをやめる決断、これは生涯二度とヴァイオリンには触れないという決断で、ヴァイオリンを手放しました。
理由はいくつもあります。
いわば追い詰められて心身共に限界に達してしまった、ということです。
音楽もヴァイオリンも好きな気持ちは持ちながらも、ヴァイオリニストとしての活動に挫折した私は、しばらく死んだ人間のようになっていました。そんな私を救ってくれたのがボランティア活動です。ボランティアに誘われ、演奏するうちに、音楽の持つ温かいエネルギーを知り「演奏とは、聴き手との心の交流だったんだ」と気がつきました。目指すのは「競い合うこと」ではなく「唯一無二の自分に向き合うこと」。そして私は立ち直りました。

港区の思い出を教えてください。

私も兄たちも生まれたのが港区、慶應義塾の幼稚舎から中学高校大学、と港区で、まさに港区に育てていただきました!

最後に、来場されるお客様に向けメッセージを。

最高のコンサートホールで、最高のオーケストラと指揮者、大好きな名曲メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を大切なストラディヴァリウスで演奏します。今回は兄の千住明も出演します。
とにかく楽しみなコンサート、喜びで今からワクワクしてます。この日一日しかないスペシャルなコンサート、ぜひ、ご家族皆さまでいらしてくださいね。お一人様も大歓迎!会場でお待ちしています。

プロフィール

千住 真理子(せんじゅ まりこ)さん

千住 真理子(せんじゅまりこ)
2歳3ヶ月より鷲見三郎、江藤俊哉に師事。
1979年、第26回パガニーニ国際コンクールに最年少で入賞。85年慶應義塾大学文学部哲学科卒業後、指揮者ジュゼッペ・シノーポリに認められ、 87年フィルハーモニア管弦楽団定期演奏会でロンドンデビュー。
日本画家である千住博、作曲家の千住明とともに、芸術家三兄妹としての活躍は大いに注目されている。