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港区探訪

港区のパブリックアート

第10回 港区立郷土歴史館

港区立郷土歴史館 写真

荘厳な建物の中で、港区の歴史に触れる

2018年11月にオープンした港区立郷土歴史館は、港区にまつわる3万年の歴史がギュッと詰まった地域博物館。充実した展示内容はもちろんのこと、創建当時の姿が残る築80年の建物の意匠も見逃せません。

歴史的な建造物を保存改修した郷土歴史館
フロアごとのデザインの違いにも注目

白金台駅のほど近くに、威風堂々とした建物があります。この建物はもともと、国民の保健衛生について調査研究する国立機関「公衆衛生院」として1938年に建設されたもの。2009年に港区が土地と建物を取得し、耐震補強やバリアフリー化等の改修工事を実施したうえで、郷土歴史館や子育て関連施設が入った複合施設「ゆかしの杜」として新しく生まれ変わりました。

建物を設計したのは、東京大学の安田講堂を手がけたことで知られる内田祥三(よしかず)氏。東京大学建築学科の教授で、のちに東京大学総長を務めた人物です。建物はゴシック調の洋風建築で、隣に建つ東京大学医科学研究所と対をなすデザイン。中央エントランスホールは吹き抜けの天井に華やかなレリーフがあしらわれ、床や壁には高級な石材がふんだんに使われており、国立の研究施設として恥じないものを作ろうとした内田氏の気概が感じ取れます。

港区立郷土歴史館 外観写真

内田氏が好んで使ったスクラッチタイルや連続アーチが特徴的な外観デザインは「内田ゴシック」と呼ばれています。

港区立郷土歴史館 内観写真

建設当初の姿がよく残る旧講堂。講壇の左右に配されたレリーフは、大正から昭和にかけて活躍した彫刻家、新海竹蔵によるもの。

一方、かつて学生たちの授業が行われた教室や実験室があった4階から5階にかけての吹き抜けは装飾が少なくシンプルなつくり。実用的なフロアは簡素に、そしてゲストを迎え入れるエントランス階は格式高く華やかな印象にと、フロアによってデザインが分けられているのです。素材の違い等で、さりげなくデザインを分けるのは和風建築の手法とされ、洋風建築でありながら和のエッセンスをとり入れた造りになっていると言えます。

港区立郷土歴史館 内観写真

写真左)迎賓エリアにあたる2~3階の吹き抜け。石材をたっぷり使い、手の込んだ装飾をほどこした高級な仕上げ。
写真右)4~5階の吹き抜け。関係者が使用していた階のため装飾は控えめですが、シンプルな曲線が美しい空間。

無料エリアでも見ごたえたっぷり
カフェやミュージアムショップも併設

郷土歴史館は、さまざまな資料を見たり触れたりしながら、港区の歴史、文化、自然を学べる場所。港区の歴史のあらましをプロジェクションマッピングで学べるガイダンスルームや、縄文土器やクジラの骨格標本に実際に手で触れられるコミュニケーションルーム、旧講堂や旧院長室をはじめとする建物展示等、無料エリアでも十分な見ごたえが。有料エリアとなる常設展や特別展では、さらに豊富な資料を通して港区についての知識を深めることができます。「建物が好きな人、歴史が好きな人、港区が好きな人。多くの人に楽しんでもらえる施設です」と、学芸員の川上悠介さん。オーガニックカフェやミュージアムショップも併設されているので、お茶やランチを楽しみながら港区の歴史を満喫する一日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

港区立郷土歴史館 内観写真

写真左)改修時のコンセプトは「新旧わかりやすく」。どう改修したかがわかるよう、バリアフリー化のために床を底上げした部屋では、新しい床や壁に埋もれた古い扉を隠すことなく見せています。
写真右)重厚でレトロな雰囲気の電灯器具は、創建当時のまま。

港区立郷土歴史館 内観写真

地下へ光を通し、空間を明るくしていたガラスブロック床。

港区立郷土歴史館 内観写真

旧院長室。当時高級材だったベニヤをたっぷりと使い、床は寄木細工という手の込んだしつらえになっています。

港区立郷土歴史館 展示写真

コミュニケーションルーム。縄文土器やミンククジラの骨格標本等、本物の資料を見たり触ったりできるので、大人も子どもも楽しめます。

港区立郷土歴史館

【住所】
港区白金台4-6-2 ゆかしの杜内
(「白金台」駅徒歩1分)
【開館時間】
9:00~17:00(土曜~20:00)
【休館日】
第3木曜(祝日の場合は前日休館)、年末年始等
【常設展観覧料】
大人300円、高校生以下100円、未就学児無料
【港区民無料公開日】
2/11、5/5、8/11、11/3
(※証明ができるもの持参)

取材こぼれ話
港区立郷土歴史館 常設展

海、くらし、交通、教育……
さまざまな視点から港区を知る

常設展は、港区と海にまつわる資料を集めた「海とひとのダイナミズム」、江戸時代の港区の様子を紹介する「都市と文化のひろがり」、近現代の港区の歴史を学べる「ひとの移動とくらし」という3つのテーマで構成。かつて芝5丁目にあった郷土資料館の展示物を引き継いだ形ですが、新しい資料やデジタル展示を導入し、よりわかりやすく楽しめる内容となっています。目玉は壁一面を埋め尽くす伊皿子(いさらご)貝塚の貝層断面。江戸の遺跡からの出土品等希少な資料も数多く並べられています。また、企画展として、特別展示室では、2月16日(土)から5月26日(日)まで「平成と港区」(別途料金)を開催予定です。

港区立郷土歴史館 展示写真

テーマⅠ「海とひとのダイナミズム」

港区立郷土歴史館 展示写真

テーマⅡ「都市と文化のひろがり」

港区立郷土歴史館 展示写真

テーマⅢ「ひとの移動とくらし」

港区立郷土歴史館 展示写真

タッチパネルやプロジェクションマッピング等のデジタル設備が充実し、港区の歴史や文化を体感的に知ることができます。