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みなと区民大学

港区内の各大学との共催で開催
北里大学薬学部 教授 加藤くみ子先生

北里大学薬学部 教授

加藤くみ子先生

北里大学 vol.2
今回のテーマ:先端技術とおくすり

こんにちは。北里大学薬学部の加藤と申します。今回は、おくすりに用いられている先端技術の事例について記載したいと思います。
私が現在研究しているのは、「ナノテクノロジー」をおくすりに応用する技術です。皆様、ご存じかと思いますが、おくすりを開発する際には、より効き目を出すこと、そして、より副作用を少なくすることが重要になります。この両者をかなえる1つの方法に、ナノテクノロジーを応用して、おくすりを目的の部位に送り込む手段が用いられています(図1)。これを薬物送達技術(DDS)といいます。では、ナノテクノロジーとDDSがどのように関わっているのでしょうか。
ナノテクノロジーの「ナノ」とは、ナノメートルのこと、つまり、1メートルの10-9倍、言い換えると、1メートルの“10億分の1”です。あまりイメージできないですね。地球の直径のおおよそ10億分の1が1円玉の直径に相当します(図2)。小さいですね。特殊な顕微鏡を使うと、直径100ナノメートル程度の脂質からなるカプセルを観察できます。このナノメートルサイズのカプセルの中に有効な成分を閉じ込めて病変部に浸透させることができる場合があります。例えば、がん等の病変部で、血管壁の隙間が健康な組織を取り巻く血管壁の隙間より大きくなっていると、この隙間を通してナノサイズのカプセルがより病変部に浸透しやすくなるという事例が知られています。また、ナノサイズのカプセルを注射すると比較的肝臓に移行しやすいので、肝臓の疾患に用いられている例もあります。日本でも、すでにナノサイズのおくすりは使用されていますが、ほとんどは、病院内で用いられるおくすりです。がんや感染症の治療等に用いられています。
安全なおくすりが作られていくためには、予め定められた品質の規格に合格したものが作られていることが重要です。これを「品質管理」といいます。品質管理は、食品や自動車等、わたくしたちの身の回りで用いられている多くの製品で必要な概念です。ナノサイズのおくすりでは、そのサイズや形等が予め決められた規格の中に入っている必要があります。これからも先端的なナノサイズの複雑なおくすりが開発されていくことが予想されるため、私はその品質管理が適切に行われるような分析法の研究を行っています。
一方で、ナノメートルサイズの物質は、より大きなサイズの物質とは、様々に異なる性質を持っているので、体内に投与したときに懸念される影響はないか、慎重に試験が行われます。このような試験は、ナノテクノロジーを利用しているから、というだけでなく、他のすべてのおくすりでも同じですが、ナノテクノロジーを利用したおくすりの場合は、そのサイズや形にも留意する必要があります。多くの試験を経て、おくすりとして認められます。
現在、新型コロナウイルス感染症に対する様々なタイプのワクチンの開発が進められていますが、海外では、ナノメートルサイズのカプセルの中にワクチンの作用に関わる主要な成分を閉じ込めたものが開発段階にあります。このように、先端技術を病気の予防にも役立たせるための研究も進んでいます。

[COLUMN]北里大学白金キャンパス

人々の健康増進に役立つ研究が盛ん
学祖は新千円札の「顔」に

世界で初めて破傷風菌の純粋培養に成功し、近代日本医学の礎を築いた北里柴三郎博士。その北里博士が設立した北里研究所を母体として、1962年に開学したのが北里大学です。発祥の地である白金キャンパスには、薬学部をはじめ北里研究所病院や東洋医学総合研究所等が置かれ、生命科学分野の研究が活発に行われています。今年3月には「COVID-19対策北里プロジェクト」が始動。新型コロナウイルス感染症の治療薬探索のため、既存承認薬の大規模スクリーニングや、大村智特別栄誉教授のノーベル生理学・医学賞受賞につながった抗寄生虫薬「イベルメクチン」の臨床試験を進める計画です。
また、地域と協力しながら人々の健康増進に役立つ取組みも。予防医学デーである11月5日をきっかけに昨年は、北里研究所病院や東洋医学総合研究所の各診療科による健康チェックを無料で受けられる「予防医学デーフェスティバル」を開催しました。
白金キャンパス内には誰でも見学できる展示室も揃っています。「北里柴三郎記念館展示室」は北里博士の業績をタッチパネルで解説するほか、実験器具、書簡等を展示。「東洋医学資料展示室」では古医書、巻物類、生薬標本等、漢方医学に関する貴重な資料の数々が展示されています。
総務部広報課の田部井直人さんは、「2024年度に発行される新千円札の図柄に、北里柴三郎博士の肖像が使用されることが決定しました。これを機に北里博士や北里大学を少しでも身近に感じていただければ嬉しいです」。

※学内の施設利用やイベント開催は、新型コロナウイルス感染症の状況により休止する場合があります。

プロフィール

加藤くみ子(かとうくみこ)

加藤くみ子(かとうくみこ)
東京大学薬学部卒、東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了
博士(薬学)(東京大学)
2019年より現職

写真:図1 薬物送達技術による薬物の標的部位への送達
写真:図2 「1ナノメートル:1メートルの10億分の1」を地球と1円玉で例える
北里大学白金キャンパス
北里柴三郎記念館展示室