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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
ミュージカル俳優 藍 実成さん、大塚庸介さん、吉田 雄さん

ミュージカル俳優

藍 実成 さん
大塚庸介 さん
吉田 雄 さん

心の栄養となる名曲の数々。
生きる力を与えてくれるミュージカルです!

5月11日〜16日、俳優座劇場(港区)にて上演されるミュージカル「おれたちは天使じゃない」は、「ミュージカルカンパニーイッツフォーリーズ」の代表作の一つです。出演される藍実成さん、大塚庸介さん、吉田雄さんに、見どころなどをうかがいました。

今回上演されるのは、どのような作品ですか?見どころを教えてください。

大塚
「おれたちは天使じゃない」の初演は1974年で、これまで全国1200回余上演し、今回は13年ぶりの再演となります。劇団の創設者いずみたくの楽曲を継承しながら、新しい演出を加えている点が見どころの一つで、前を向いて生きることの大切さを教えてくれる物語です。命や人生について考える機会が多くなったコロナ禍だからこそ、よりストレートにメッセージを受け取っていただけるのではないかと思っています。

吉田
主人公である3人の脱獄囚は、忍び込んだ山荘で、借金苦によって自殺しようとしている父娘に出会い、心ならずも助けてしまいます。知的障害をもつ娘・光子は彼らを天使だと思い込み、脱獄囚たちは、光子の純粋な心に影響されて、逃亡計画を狂わせていく……というお話です。サスペンス、ヒューマンドラマ、コメディなどさまざまな要素が入っていて、ミュージカルをはじめて見る方にも楽しんでいただける作品だと思います。


本作は、一言で表現すると、とてつもなく、まっすぐな作品です。シンプルなセリフが多いのですが、たとえば「さよなら」という言葉の中にも、深い思いが込められています。そうしたセリフに込めた思いにも、耳をすましていただければと思います。

それぞれの演じる役どころについて教えてください。

吉田
私は、3人の脱獄囚のうちの一人「泉の三太」を演じます。直情的で腕っ節が強く、情に厚い男臭い役柄です。俳優2年目の2008年公演では、アンサブル(舞台の世界観をつくりあげる脇役)の黒衣を演じました。倒れる寸前まで稽古をし、やっと千秋楽を迎えられたときはうれしくて、本番前に、亡きいずみたくに「先生、見ていますか」と涙ながらに語りかけたことも。今回は主役ということで、さらにプレッシャーも大きいですね。

私の役も、脱獄囚の一人「キャンパスの助六」で、冷静沈着で頭の回転の早い人物です。本作は多くの人に長年愛されてきた作品ですので、その歴史をしっかり受け止め、いい緊張感を感じながら稽古に励んでいます。
大塚
劇団入団時の2001年公演で、黒衣として出演したこともある作品で、今回は「駐在の巡査」を演じます。それぞれの人間関係をつなぐ重要な役どころで、やりがいがあります。トラブルメーカーでコメディアンのような要素もあり、演じていて楽しいですね。

今回、とくに苦労されたところ、演じる際に気をつけた点はありますか?

吉田
実は本作は、俳優である私の両親も過去に出演してきた作品で、子どもの頃から何度も繰り返し見てきて、セリフが全部頭に入っています。そうした記憶を一度全部取り払って、自分なりの三太をつくりあげなければならず、苦労しました。むら気のある役柄なので、気持ちの切り替えも難しかったです。

苦労したのは、シンプルなセリフの中に、いかに複雑な思いを込めるかという点です。そのためには役柄に入り込み、心の底から、言葉が自然に出てくるようにしないといけません。テクニックだけではごまかせないところが、この作品の難しさであり、凄みであり、演じるおもしろさでもあると感じています。
大塚
「駐在の巡査」の東北弁には、技術的に苦労しました。2時間半のお芝居の中で15分という出番の少なさですが、その中でいかに巡査の人柄を強く印象づけていくかが、ポイントになると思っています。

コロナ禍の中では、どのように稽古されているのですか?

大塚
いつも以上に手洗いうがいをして、稽古場に入る前にはアルコール消毒をしっかりして、体温も測ります。稽古場での換気は必須で、冬でも窓は開けっ放しで寒いし、マスクをつけたまま稽古をするので、息苦しくて大変です。でも大変なのは俳優だけではなく、お客様も、感染症対策をして、リスクを負って見に来てくださるわけです。やはり、お客様も一緒に舞台をつくっているのだ、舞台の最後の1ピースをはめるのはお客様なのだ、と改めて感じています。
吉田
稽古は、マスクでお互いに表情が見えない状態で行います。ゲネプロという最終リハーサルではじめてマスクを外しますが、そこで、「あ、こんな顔をしていたのか」と知ることも(笑)。ある舞台では、密にならないように稽古をし、PCR検査を何度もクリアして、やっと本番となったとき、これまでに感じたことのない感動を覚えました。お客様は人生の大切な時間を使って、舞台を楽しみに来てくださっているのだということも、改めて感じました。ある方が、「コロナ禍において、演劇は欠かすことのできない心の栄養剤」とおっしゃっていたこともありましたが、本当にその通りだと思って。そうした心の糧となるものを生み出す存在、俳優として生きることができて、うれしく思っています。

私は、実は昨年出演予定だった公演がすべて中止となり、今回は、ほぼ1年ぶりの舞台です。活動自粛中はお芝居のスキルが一気に失われたように感じられ、久々に本読みに参加したときには、案の定、まったくうまくいかなくて……。だから今回の舞台は、ゼロからというより、マイナスからのスタートだと思って取り組んでいます。コロナによって、自分自身の問題点や、俳優としての改善点も見えてきて、ある意味、大きく成長していけるチャンスを与えていただいているとも捉えています。

当初劇団の拠点があった港区では、どのような思い出がありますか?

大塚
2012年まで、劇団の拠点が港区にあったときは、区内の小学校でミュージカルを教えたり、「みなと区民まつり」や「麻布十番納涼まつり」のステージで、パフォーマンスを行ってきました。「麻布十番納涼まつり」では、いずみたくが岐阜県の県歌をつくったご縁がきっかけで、岐阜の河合村(現飛騨市)から雪を運んで雪まつりをしたことも。拠点を蔵前に移してからも、イベントのお手伝いは続けて行っています。

最後に、今後の目標とメッセージをお願いします。

吉田
この作品の上演が続いていく以上、三太という役を演じ続け、深めていきたいと思っています。尊敬する先輩方が演じてこられた三太よりも上を目指すことは、ものすごく高いハードルです。でも、それを超えていく覚悟で、演じていきたいと思います。

昨年はコロナ禍によって、多くの舞台が中止になりました。だからこそ今、舞台芸術の必要性を改めて感じています。舞台で他の演者の方や、お客様と触れ合うことが、こんなにもうれしく、幸せに感じられたことはありません。今後はシェイクスピアの作品や、コメディにも挑戦していきたいですね。とくにコメディは劇場の空気感をお客様とともにつくっていくところがあります。場を盛り上げるために、微妙なさじ加減ができる役者をめざしていきたいです。
大塚
舞台はお客様とともにつくっていくものです。この作品のクライマックスで、「今、今、今」という曲を歌うシーンがありますが、毎回、客席が静まり、歌い終わった瞬間にワーッと大きな拍手が巻き起こります。まさに客席と舞台が一つになる瞬間です。そうした瞬間をつくっていけるよう、がんばって演じていきたいと思います。今後は、歌も踊りもすべてお芝居の内ということを再認識し、芝居力をさらに磨いていきたいと思います。

プロフィール

藍 実成さん

藍 実成(あいみなり)
俳優。群馬県出身。サンビーム所属。イッツフォーリーズの舞台は、「おれたちは天使じゃない」が初出演で、ミュージカル初主演。最近出演した作品に「キレイ-神様と待ち合わせした女-」(作・演出 松尾スズキ)などがある。
大塚庸介さん
大塚庸介(おおつかようすけ)
俳優。東京都出身。杉並児童合唱団に10年在籍。2001年よりイッツフォーリーズ所属。数々のミュージカル作品に出演し、俳優業だけではなく、演出家、振付師として、またライブなどの音楽活動も行っている
吉田 雄さん
吉田 雄(よしだゆう)
俳優。埼玉県出身。ミュージカルカンパニー イッツフォーリーズ附属養成所卒業。2006年よりイッツフォーリーズ所属。2020年は東宝ミュージカル「ローマの休日」にも出演。幅広い役にチャレンジしている。父親は俳優の福沢良一。