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高知大学 医学部 寄附講座
児童青年期精神医学 特任教授
高橋 秀俊さん
(たかはしひでとし)
今年11月下旬から12月上旬にかけて開催される映画上映イベント「第4回みなとシネマフェスタ~ドキドキワクワク!みなとでシネマ~」では、障害のある方や小さなお子さま連れのご家族でも安心して映画鑑賞を楽しめるよう、さまざまなバリアフリー対応をご用意しています。その一つが「センサリーフレンドリー上映」です。全国各地でセンサリーフレンドリー上映に関わってきた医学博士の高橋秀俊さんに、どのような上映方法なのかおうかがいしました。
感覚過敏などがある方に配慮して、音や光などの刺激を控えめにした上映のことです。
例えば自閉スペクトラム症などの障害のある方にとっては、日常的な音や光でも刺激が強すぎる場合があります。そこでセンサリーフレンドリー上映では、音を大きすぎないレベルに下げたり、突然の強い光を感じないよう上映会場の照明をほんのり明るくしておいたりという調整を行います。ほかにも、映画が始まるブザー音を流さない、上映中に歩き回ってもかまわない、つらくなったら会場の外に出られるよう出入り自由にする、一人になって落ち着けるクールダウンスペースを設ける、という対応もとられています。
また、感覚過敏のある方は新しい状況に対して不安を抱くことが多いので、あらかじめ、会場にどのような設備があるかをお知らせしておくことも重要です。「みなとシネマフェスタ」のセンサリーフレンドリー上映では、事前に鑑賞券とともに会場案内図をお渡ししたうえで、当日は支援員の方によって会場や設備についての説明が行われています。
このような上映会は、2010年ごろに欧米で始まりました。日本でも2018年ごろから徐々に広がっています。
私は長年、精神医学の分野で感覚過敏に関する研究をしてきました。その中で、欧米でセンサリーフレンドリー上映が行われていることを知り、「センサリーフレンドリー上映が広まれば、感覚の問題を抱える方でも社会参加がしやすくなるはず。日本でもぜひ実施したい」と考えるようになりました。そこで2018年に、自閉症スペクトラムの少女を主人公にしたアメリカ映画『500ページの夢の束』が日本で公開された際、配給会社に提案して、センサリーフレンドリー上映が実現したのです。それ以来、建築音響工学の専門家たちと力を合わせて、全国各地でセンサリーフレンドリー上映の普及に取り組んでいます。
苦労と感じることはないのですが、地域にお住まいの当事者の方々が参加しやすい上映会にするためには、さまざまな工夫が必要ですね。
上映に先立ち、地域の当事者の方々に、感覚に関してどのような困りごとがあるか、上映会場に行くまでの間にどんな配慮があったほうがいいかなどをヒアリングします。上映に向けた準備も当事者の意見を聞きながら進めます。あわせて、上映会を主催する側の方々にも感覚過敏や発達障害に対する理解を深めていただくため、職員向けの研修を実施します。
このように関係機関、行政、地域住民の皆さまと連携して準備を進めれば、大きな問題なく実施できることがほとんどです。
はい。スポーツ施設や水族館、動物公園など、さまざまな施設でセンサリーフレンドリーがとり入れられています。センサリーフレンドリーの取り組みには、高額な機器や高度な技術は必要ありませんから、どのような場所でも実施できるものだと思います。
映画上映に関しては、海外での実施例が豊富なため、センサリーフレンドリー上映をどのように行ったらよいのかがある程度見えており、日本でも導入しやすいと言えます。
映画を見たり、アートを楽しんだりという余暇活動は、生きるための活力源になります。ですが、感覚過敏があると「家の外は刺激にあふれているから怖い…」という不安から、余暇活動を楽しめないことも多いのです。センサリーフレンドリーの取り組みが増えることで、そういう方々でも安心して社会生活を楽しめるようになればと考えています。
「みなとシネマフェスタ」では2022年からセンサリーフレンドリー上映が始まりました。私も導入当初から関わっています。今年で3回目の実施となりますが、その特色は、椅子席だけでなくマット席があることです。上映会場が映画館ではなく地区センターやホールだからこそ、できることだと思います。センサリーフレンドリー上映は、障害のある方だけのものではありません。普段、映画館に連れて行きづらい小さなお子さまと一緒に、ご家族でくつろいで映画を楽しむいい機会になるのではないでしょうか。
今回、センサリーフレンドリー上映が行われるのは子ども向けの人気アニメ『パウ・パトロール
ザ・マイティ・ムービー』(11月24日(日)①11時)です。地域で開催される映画イベントですので、ご当選の方はぜひ気軽に参加して、センサリーフレンドリー上映を実際に体験していただけたらうれしいです!
高橋 秀俊
大阪大学医学部医学科を卒業後、国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部 児童期精神保健研究室
室長などを経て現職。専門領域は児童青年精神医学、臨床神経生理学。発達障害などによる感覚過敏に関する神経生理学的な研究を行うほか、研究者の立場から感覚特性を持つ人々への支援にも関わっている。欧米で先行して行われていたセンサリーフレンドリー上映を日本でも広めようと精力的な活動を行っている。