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脚本家
坂口 理子さん
(さかぐち りこ)
「第5回みなとシネマフェスタ~ドキドキワクワク!みなとでシネマ~」で、11月25日(火)に映画『銀河鉄道の父』が上映されます。上映後のトークショーに登壇される脚本家の坂口理子さんに、シナリオ執筆の苦労やトークショーの楽しみどころなどをうかがいました。
『銀河鉄道の父』は、父親の視点で宮沢賢治の生涯を見つめた物語で、門井慶喜さん作の同名小説が原作となっています。原作では父親の心の動きが文章で細やかに綴られていますが、「心の声を表に出さないのが父たるもの」という人物像なのです。セリフで心情を語ってしまうと世界観が崩れるので、その部分をどのように映像で表現するかがとても難しかったですね。
また、映画には賢治の妹・トシが祖父に向かって厳しい言葉を投げかけるシーンがあります。原作では、トシは手紙に書いているのですが、その文面をカメラで映したとしても、手紙を読んだ家族の感動は伝わらないはず……。そこで面と向かって言葉を投げかける設定にしました。原作が言わんとする本質を表現するために、こうして見せ方を変えたシーンもあります。
私の父が児童文学作家(三田村信行さん)だったこともあり、幼い頃から宮沢賢治の作品に親しんできました。とりわけ『銀河鉄道の夜』は大好きな作品です。
『銀河鉄道の父』の成島
出監督とは、これまでにも何度かお仕事でご一緒する機会があり、雑談の中で私が「宮沢賢治が好き」と話したことを覚えてくださっていたようです。ある日、電話がかかってきて「坂口さんに合う作品だと思う。どう?」とお誘いいただきました。
2023年に立ち上げた「Project未來圏」という演劇ユニットで、『銀河鉄道の夜』を私なりに再解釈した『銀河廃線』という作品を上演しました。
Project未來圏は、10代の若い人たちにお芝居の楽しさを知ってもらいたくて始めた活動で、私は主宰・脚本を務めています。オーディションで選ばれた役者志望の若者たちと、プロの俳優陣が一つの舞台を作り上げ、定期的に公演を行っています。ユニット名にある「未來圏」も、宮沢賢治が若い人たちに贈ったメッセージの中で使われた言葉なんですよ。
文章で書いた脚本が、目に見える形で仕上がってくることです。しかも自分の想像をはるかに超えた、素晴らしい質感で。それがいちばんの魅力ですね。制作過程で大変な思いをしても、完成した作品を見ると「やめられないなぁ」と痛感します。たとえば「こんなにかっこいい男性がいたらいいな」と想像しながら脚本に書くと、スクリーンの中に思い描いた通りの人物が現れるので、まるで魔法のようです。仲の良いディレクターにそう話したら、「魔法じゃない。俺たちが苦労して演出してるんだよ!」と怒られましたが(笑)。
プロデューサーは、資金面やキャスト配置など、企画の全てを管理します。もちろん監督と相談しながらですが、企画のスタートから完成後まで全ての段階に関わる、扇の要のような存在です。
そして脚本家はシナリオを書くのが仕事。一回書きあげたら終わりというわけではなく、「本打ち」と呼ばれる打合せを繰り返し、何度も修正を重ねます。『銀河鉄道の父』の場合は第17稿が決定稿となりました。本打ちには必ずプロデューサーが同席して、一緒に脚本づくりを進めます。
「実はこういうシーンが入る予定だったけど、ひっくり返った」など、本打ちの思い出をお聞きいただけるのは脚本家が参加するトークショーならではだと思います。プロデューサーの武部さんからは、脚本が完成した後の撮影秘話やエピソードが飛び出すかもしれません。家族愛あふれる映画と、その後のトークショーをどちらもお楽しみください!
机の前に座ってパソコン画面をにらんでいても、なかなかいいアイデアは浮かびません。散歩をしたり本を読んだり、電車に乗っている時のほうが、フッと思いつきます。目の前に流れる風景を見ながら、なんとなく考えられる状態がいいんですよね。私は登山が趣味ですが、山を歩きながらぼんやりといろいろな考えごとをする時間もすごく好きです。

坂口 理子
脚本家。2006年に『おシャシャのシャン!』で第31回創作テレビドラマ大賞の最優秀賞を受賞し、NHK制作によりドラマ化されデビュー。主な作品に、映画『かぐや姫の物語』(2013年・高畑勲監督との共同脚本)、ミュージカル『梨泰院クラス』(2025年)、アイスショー『氷艶2024-十字星のキセキ』(2024年)など。2025年10月に映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』が公開。また、自身が主宰する演劇ユニットProject未來圏で、少年少女俳優とベテラン俳優とのタッグで公演を行っている(2026年4月新作公演予定)。