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幕末の品川宿に置かれた問屋場(といやば)の模型。問屋場には人馬が待機し、リレー形式で荷物を運びました。
私たちの暮らしを陰で支える「物流」の歴史やしくみを、貴重な実物資料と楽しいデジタル展示で紹介する物流博物館をピックアップしました。
インターネットで注文した品物が翌日には自宅に届く……そんな便利な暮らしが、いまや私たちの日常となっています。しかし、この“当たり前”が実現するまでには、長い年月と先人たちの工夫の積み重ねがありました。「物流博物館」は、そんな物流のあゆみと、現在の物流システムを楽しく学べる施設です。もともとは日本通運(株)の「通運史料室」として設立され、1998年に一般向けの博物館として高輪4丁目に開館しました。現在は(公財)利用運送振興会が運営しています。
1階は、主に江戸~昭和期の物流の歴史を紹介するフロアです。江戸時代には幕府の指揮のもと全国的な輸送網が整えられました。当時は海や河川を利用した水運が輸送の中心で、風の力で進む帆走船などが使われ、遭難などの事故も珍しくなかったそうです。明治時代に入ると鉄道や自動車など機械力による輸送が発達していきます。
地下1階には、物流のしくみをわかりやすく伝える映像やゲーム、クイズなどの体験展示が並びます。まず目に飛び込んでくるのは巨大なジオラマ。鉄道や港などのターミナルで貨物が積み替えられながら目的地へ運ばれる様子が再現されています。昼夜を問わず動き続ける鉄道やトラックの姿に思わず見入ってしまうはず。
学芸員の小緑一平さんは「物流は“システム”ですから、どうしてもイメージしにくいもの。当館の展示が、物流について考えるきっかけになればうれしい」と話します。親子連れから物流業界の関係者まで、幅広い層が訪れる物流博物館。普段は意識することが少ない“物流の世界”をのぞきに、足を運んでみてはいかがでしょうか。
1階の「物流の歴史展示室」には写真、模型、映像などの資料がぎっしり。展示物を入れ替えて企画展示が行われることもあります。
昭和中頃までの荷造りを紹介するコーナー。約80年前に梱包された未開封の荷物も!
江戸時代、東海道の京都・大津間で牛車(うしぐるま)走行用に敷かれた「車石(くるまいし)」。溝に車輪がはまる構造で、路面の傷みやぬかるみを防止するために用いられました。
地下1階「現代の物流展示室」。映像やゲーム、クイズを通して、現代の物流産業や宅配便のしくみを知ることができます。
1950年代後半、静岡県の沼津駅で荷降ろしをする様子。荷物の中身は陶器製の汽車土瓶で、梱包材にはワラが使われています。
江戸時代には手紙や荷物を運ぶ「飛脚」が活躍。速達もありました。左下の資料は東海道筋の定飛脚の走行目安表です。
(上)昔の道具で荷物をかつぐ体験ができるコーナー。
(右上)ワラ製の輪と竹製のカゴ(パイスケ)を使い、荷物を頭に乗せて運ぶ頭上運搬を体験!
(右下)夏休みにはダンボール工作などのイベントも開催。
品川駅から坂を上って徒歩約7分。赤レンガ倉庫をイメージしたという外観がかわいらしい建物です。
住所: 港区高輪4-7-15
営業時間: 10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:
月曜・第4火曜(祝日の場合は翌日)、展示替え期間、年末年始
入館料:
高校生以上200円、65歳以上100円、中学生以下無料
アクセス: JR・京浜急行線「品川」駅徒歩7分
都営浅草線「高輪台」駅徒歩7分
右の錦絵は、日本で鉄道が開業して間もない頃の新橋駅の様子を描いたものです。注目したいのは、3両の貨車や貨物ホーム。実は、鉄道にまつわる錦絵は多数存在するものの、貨物を取り扱う風景が描かれたものは確認されるなかでこの絵だけなのです。
錦絵の右端には、石壁造りの荷物庫があります。また、荷物庫が設置された貨物ホームで荷物の積み降ろしをする人たちや、左端には荷車に載せた荷物を駅に運ぶ人たちも見えます。そのなかに内国通運会社の社章であるマル通マークの印半纏を着た人の姿があることから、この絵は同社の宣伝を兼ねたタイアップ広告だった可能性があるそうです。
内国通運会社とは、江戸時代に手紙や荷物を運んだ飛脚にルーツをもつ会社です。1871年に明治政府が郵便制度をスタートした際、飛脚たちは手紙の輸送から撤退する代わりに、荷物の運送を引き受けました。その時に飛脚たちが結束して立ち上げたのが「陸運元会社」です。3年後に「内国通運会社」と改称され、その後身企業をもとに1937年には半官半民の国策会社「日本通運株式会社」が設立。戦後に民間企業となり、現在では日本通運(株)をはじめ国内外にグループ企業を有する「NXグループ」となっています。
(上)『東京名所之内新橋ステンシヨン蒸汽車鉄道図』歌川広重(三代)画、1875年頃。
(右)上記の錦絵などをもとに製作された模型。ほかにも物流博物館には、各時代の物流現場を再現する模型が展示されています。