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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
吉田 一輔さん(文楽人形遣い)

文楽人形遣い

吉田 一輔 さん

親子4代の文楽人形遣(ぶんらくにんぎょうつか)いが伝える伝統と新たな挑戦

文楽界では珍しい人形遣い3代目の吉田一輔さんは、13歳で父に入門し、「咲くやこの花賞」受賞や『三谷文楽』で注目される若手のホープ。昨年秋に高校生の息子さんも入門し、文楽人形遣い初の4代目が誕生しました。親としての思いや、5月に出演される赤坂区民センター『赤坂花形文楽』について伺いました。

息子さんが入門され楽しみですね。

文楽は世襲制ではないですし、人形遣いは最初の足遣いでも10年、15年と修行が長いので、親も継げと言わないことが多いのです。ただ僕の場合、生まれた時から家に浄瑠璃が流れ、稽古する父の姿を見たり、扇を玩具に育ってきました。周囲も跡を継ぐのが当たり前と考えていましたし、中学1年の時、同い年の子が修行に入ったと聞いて「やるんだったら早い方が」と思ったんですね。それで「やりたい」と頼みましたが、父は「無理や、やめとけ」と。何度も頼んで、母も口添えしてくれて、やっと入れてもらえました。息子も同じように、小さい頃から「4代目」と言われていましたが、本人は小学校からずっと野球に夢中。自分が親の立場になって我が子を見るとまだまだ子どもですし、厳しい世界ですから「ああ良かった」と思っていたのですが、高3で進路を考える時期になり相当悩んだみたいで。甲子園の夏の予選が終わった頃から、何度も劇場に来て確かめ、覚悟の上で「やる」と決めたのでしょう。

自分も経験してきただけに、親としての本音は複雑ですが、伝統を継いでくれるのはすごく嬉しいことです。我が子が来たことで、改めて一生懸命な気持ちも強くなりました。いろいろなことに挑戦し、新しいお客様にも来ていただきたいですね。

挑戦ということでは、三谷幸喜さんの『三谷文楽 其礼成心中(それなりしんじゅう)』の仕掛け人としても注目されましたね。

文楽には喜劇がほとんどありませんが、以前、立川志の輔師匠の、落語と文楽を組み合わせた演目をやらせていただいて「文楽と笑いの両方がわかる方が作ると面白いものができる、そんなお芝居がしたい」と考えていたんです。そのあと三谷さんと知り合って、お願いしました。伝統を守りながら新しいものを作るのは難しいですが、達成感も大きかったですね。縁があるからできたことで、非常にありがたいことです。もちろん一番は、国立劇場や大阪・国立文楽劇場での本公演に、こうした経験がプラスになること。この『三谷文楽』も港区の『赤坂花形文楽』もそうですが、若手にチャンスをいただくことは、それに応える責任感が湧いてきますし、本公演も一生懸命勉強しますので、良いことずくめだと思っています。

では『赤坂花形文楽』の見所は?

きれいな女性が、鬼女に変身する『増補大江山 戻り橋の段』をやります。人形の仕掛けや表現の変化を近い距離で見ていただけますし、本公演とはまた違った若い力の結集をお楽しみください。

プロフィール

吉田 一輔(よしだいちすけ)
1969年、大阪生まれ。祖父は桐竹亀松、父は桐竹一暢。13歳で父に入門し、1985年国立文楽劇場で初舞台。2004年、三代目吉田簑助門下となり吉田姓を名のる。2008年の第28回国立劇場文楽賞文楽奨励賞、2010年平成21年度咲くやこの花賞、大阪文化祭賞奨励賞等受賞。

はみだし情報

父・桐竹一暢さんが亡くなったあと、一輔さんは三代目吉田簑助さんのもとに入門、息子さんも吉田簑助さんに入門し、珍しい親子揃っての弟子入りとなりました。休日は野球好きの息子さんとキャッチボール等でリラックスするそうです。