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落語家
古今亭志輔 さん
5月に開催される「赤坂青山寄席「志ん輔のシェイクスピアを楽しむ会」」にご出演の古今亭志ん輔さん。シェイクスピア作品を落語に仕立てた創作落語は、どのようなお話になるのでしょうか。
それですか? もう何回も話したから恥ずかしいけど。見ちゃったんですよ、師匠を。3代目故古今亭志ん朝の落語を。高校生の時、先輩にもらったチケットで落語会へ行ったら、ドンと魅せられて。ものすごい衝撃でしたね。高校卒業までの1年をかけて親を説得して、この世界へ入りました。
苦労はなかったですね。だって自分で選んだんだし。
ただ、自分が想像していないことはありましたよ。ネギを刻むとかね。料理をしたこともないし、家事なんて何も知らない。すべてが初めてだったけど、少しずつできるようになって、0.5ずつでもステップが上がっていく毎日が楽しかったですよ。だから苦労はしていません。
落語っていうのは、無駄をなるべく削ぎ落していくんです。小説は、少しの核をずーっと膨らませるもの。例えば、今、2人で話してるということを、赤坂見附の雑踏は普段と変わらなかったみたいに表現するでしょ。右へ行けば永田町、坂を上ると有名な和菓子屋さんがあって…って、早くここへ来いよって。そういうのが小説。落語は、全部削ぎ落して、筋だけにしてちょっと肉をつけるって感じだから。その肉のところが個性になっていればいいというところですよね。
あのテレビは、最初のコーナーが1分、後のコーナーが2分30秒から3分弱くらいで大体収まるようにしてねと言われていました。子供は30秒つまんなかったらチャンネル変えちゃうからって。だから削ぎ落していく作業的には落語と似てましたね。もちろん台本はあるんですけど、あれはつまんない。急に「たんこぶ」がほしいと思いついて、美術さんに作ってもらったり、効果音が間に合わなそうなときには、自分の声で「ビューン」と言ってみたり、だんだんお互いの呼吸を覚えていくわけ。戦い合いだね。だから新鮮でいられたんじゃないですかな。段取りばかりじゃ面白くないもんね。スタッフの皆さんのおかげで、面白い番組になったと思います。
落語漬けの毎日を送っていたある日、勘三郎丈がまだ勘九郎だった頃に舞台を観て、ちゃんとセリフを伝えれば、ダジャレでも受けるんだというのが分かったんです。落語でも試してみたら、今までうけなかった箇所もうけるようになったんです。それから芝居とか、いろんな分野の芸術作品を見るようになって、その中にシェイクスピアもあったんです。どうしたらいいのかなと思っていた時に、東京グローブ座の方が声をかけてくれたので、じゃあやってみようかってことになって始めました。
それは分からないですね。落語は習った通りにやれば、まあいいのかもしれないけど。でも、習ったことをそのままやるとやっぱり受けないんですよ。自分の言葉になっているか、なっていないかが大きくて、習った人の息づかい、声のトーン、そのままやると、うまく真似したねってなるだけで、全然話の内容は伝わってこない。話を自分の腹に入れて自分の言葉が出てくるようならいいんだけど。自分なりにかみ砕くということは、新しく作るんだろうが古典を教わるんだろうが、同じ産みの苦しみはあるんじゃないでしょうかね。
「リア王」を題材にしました。「リア王」って悲惨な話ですよね。その有名な悲劇が滑稽な話になったら面白い。そんなことを考えているうちに、映画の「東京物語」は「リア王」か、なんて思ったりして。どんな展開になるか楽しみにしていてください。
古今亭 志輔(ここんていしんすけ)さん
1953年東京都品川区生まれ。
1972年3代目故古今亭志ん朝に入門。
1985年真打昇進「古今亭志ん輔」襲名。
現在は落語協会理事。落語・講談の二ツ目専用寄席「神田連雀亭」「巣鴨獅子座」をプロデュースする等、若手の育成にも力を入れている。自主興行も数多く開催するな
ど、精力的に活動している。