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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
能声楽家 青木涼子

能声楽家

青木涼子 さん

能と現代音楽のコラボレーション「想像させる芸術」をお楽しみください!

8月3日に行われる「海湊山湊 日本みなとの美の祭典 伝統芸能~モダン舞踊&竹と藍の体感ギャラリー」に出演される能声楽家の青木涼子さん。海外でも高い評価を受ける「能と現代音楽を融合させる」試みについてお聞きしました。

能の魅力とはどのようなところですか?

想像させる芸術というところですね。能は舞台の形式が特殊で、舞台装置が変わらないため、例えばお囃子の音やストーリーを語る謡うたいを聴いて「今ここは海の場面で亡霊が出てきたんだな」とか、自分の頭で組み立てて場面を想像しながら観て楽しむ芸術です。最初は慣れないかもしれませんが、「見えた!」って思えるようになると俄然面白くなってきます。私は中学生から能の稽古を始め、東京藝術大学で専門的に学んできましたが、今でも舞台を観に行くと新しい発見がたくさんあります。

なぜ能と現代音楽を組み合わせたのでしょうか。

能というと、能面をかけて舞っている姿が一番イメージされやすいと思うのですが、実は、声楽である「謡」が大事で、稽古でも多くの時間を割きます。低音で響く謡は、オペラと同じくらいの魅力と可能性があり、この魅力はもっと世界に広く知られるべきだと感じています。そこで、様々な国の方々に、この魅力を届けるためにも、現代音楽の作曲家と一緒に、謡のための新しい楽曲を探求することにしたのです。現在は、世界の主要な作曲家と共に、「謡」を素材にした新しい楽曲を生み出し、国内外で広く発表を行っています。

具体的には、どのような音楽活動をされていますか?

港区と連携して2010年~2012年度に港区文化芸術活動サポート事業、2017年度より港区文化プログラム連携事業として、世界の作曲家に新曲を委嘱するシリーズを主催し、レパートリーを確立してきました。そこから生まれた曲たちの中から、2014年にデビューアルバム「能×現代音楽」(ALM RECORDS)をリリースして、世界の著名なホールでも演奏しています。その結果、港区の文化事業が世界で知られるようになってきました。今後も世界で港区の知名度を高めることに貢献できると嬉しいです。

青木さんが目指すものとは?

例えば、100年後に海外旅行に行った日本人が偶然鑑賞したコンサートで、謡が入ったオーケストラの曲に出会えることがあれば素敵ですよね。私はそんな未来を目指して、ペーテル・エトヴェシュ氏や、細川俊夫氏等の著名作曲家による現代音楽作品の初演のほか、ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団、フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団等世界のトップオーケストラとも共演してきました。また、スペインのテアトロ・レアル王立劇場でオペラ出演をする等、謡の可能性を追求し続けています。これから謡の入った楽曲が増えて、将来的に多くの声楽家が歌うようになればと思います。

今回のステージの見どころを教えてください。

パリ在住の作曲家・馬場法子さんによる謡と弦楽四重奏のための作品『ハゴロモ・スイート』を演奏します。この作品の物語は、ある日漁師が天女の羽衣を見つける場面から始まります。天女は羽衣がないと天に帰ることができないので、漁師に舞を見せるのと引き換えに羽衣を返してもらい、天に戻っていきます。
このような天女伝説は、世界各地に伝来しているので皆さんにも馴染み深い題材ではないでしょうか。『ハゴロモ・スイート』は、能楽作品『羽衣』から5つの光景を切り取り、漁師の集う浜の喧騒、松風、長絹の衣摺れ等、様々な現象を音に乗せながらストーリーを再構築した、わずか15分のオペラです。また、謡とワルツを融合させたり、弦楽器の弓を釣り竿に見立てて漁師を表現したりと新しい試みもたくさん行っているので、想像力を大いに働かせて新しい音楽を感じてくださいね。

プロフィール

能声楽家 青木涼子さん

青木涼子(あおきりょうこ)
世界の主要な作曲家と共に、能の声楽である「謡」を素材にした新しい楽曲を生み出し、世界で広く公演活動を行っている。2010年より作曲家に委嘱するシリーズ「Noh×Contemporary Music」を港区にて開催。東京藝術大学音楽研究科修士課程修了(能楽観世流シテ方専攻)。ロンドン大学博士課程修了。平成27年度文化庁文化交流使。港区観光大使。http://ryokoaoki.net/