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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
発酵デザイナー 小倉ヒラク

発酵デザイナー

小倉ヒラク さん

目に見えない微生物が作り出す奥深い発酵の世界をお話しします!

3月にKissポートカルチャー健康講座「シネマと発酵の話」で講演を行う小倉ヒラクさん。発酵デザイナーとしての活動や、今回の講演の聞きどころについて伺いました。

発酵に興味を持ったきっかけを教えてください。

発酵食品に興味を持つようになったのは約10年前です。当時は、デザイナーとしての仕事が多忙を極めていたにも関わらず、遊びにも手を抜かなかった(笑)。当然、無理がたたり、身体を壊してしまいました。そんな時、共通の友人のつながりで、発酵学者の小泉武夫先生に出会ったのです。「お前は免疫力が弱いから発酵食品を食べなさい!」とアドバイスを受け、味噌汁や漬物を食べるようにしたところ、本当に身体が元気になっていきました。そこから発酵食品について調べていくと、単に「健康に良い」だけでなく生物学や化学、人類学にまで発展する奥深い世界が広がっていて、どんどん発酵の世界にのめりこんでいきました。

発酵デザイナーとはどのような仕事なのでしょうか?

「見えない微生物のはたらきを、デザインを使って見えるようにする仕事」と定義しています。私は、微生物学の世界にのめり込んだ結果、東京農業大学の研究生にもなりました。デザイナーと発酵・微生物学の専門家という2つの肩書きを生かし、発酵醸造技術の素晴らしさを世の中に発信するのが私の仕事です。味噌や醤油、納豆等、発酵食品は身近にありますが、実際に微生物がどのようなはたらきをしているのかはわかりづらいですよね。顕微鏡でしか見えない微生物の世界をわかりやすく伝えるべく、ワークショップやトークイベントを開催したり、時にはアニメや歌も制作します。世界各地の研究機関やメーカーと、商品やサービスの開発等も行っています。

発酵食品が健康に良いのはなぜでしょうか?

微生物の酵素作用によって、元の食材には存在していない、身体を元気にする物質が作り出されるからです。また、微生物自体が人間の身体、特に腸にはたらきかけ、代謝や免疫機能に良い影響を与えることが近年の研究で明らかになっています。
日本に古くからある発酵食品としては、米や麦にコウジカビという特殊な発酵菌をつけて、微生物を繁殖させた「麹」が基本にあげられます。その麹を発酵のスターターにしたのが味噌や醤油、日本酒等です。他にも植物性乳酸菌を使った漬物や、魚と米を混ぜて酸っぱく発酵させたなれずし等、全国各地に様々な発酵食品文化が根付いています。

全国の発酵食品を研究されている目的と効果について教えてください。

発酵を通してその土地の歴史や気候風土、人々の暮らしを紐解くことが目的です。発酵文化には、地域色が如実に影響しています。例えば、気候環境が厳しく、中央へのアクセスが難しかった東北や九州には、冬の食糧難を乗り越えるための「サバイバルな発酵文化」が生まれました。生き延びるための人々の知恵や想像力には本当に驚かされますし、興味深い発見がとても多いですね。
詳細にその土地の発酵文化を見ていくと、そこに住む人々の独特の味覚の好みや、地域特有の微生物の生態系が明らかになります。

今回の講演や今後の活動について意気込みをお聞かせください。

今回のイベントでは、日本酒の世界で働く女性に焦点をあてた映画の上映会の後、「発酵講座」の講演を行います。映画の内容にからめ、現在のように日本酒が手軽に買えるものではなく、神への捧げ物とされていた当時の風習や、特殊な醸造法等を紹介する予定です。また、発酵食品をより身近に感じていただけるよう、現在巻き起こっている新しい日本酒カルチャーについてもお話ししたいと思っています。
さらに、4月には世界中の発酵食品を集めた「発酵デパートメント」を開店する予定です。この店舗を舞台に、発酵の持つポテンシャルの可視化をさらにすすめていきたいと思っているので、楽しみにしていてください!

プロフィール

発酵デザイナー 小倉ヒラクさん

小倉(おぐら)ヒラク
1983年東京生まれ。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市に発酵ラボをつくる。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを開催。「手前みそのうた」でグッドデザイン賞2014を受賞。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)等。