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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
新郷 英弘さん、樋口 陽介さん

芦屋釜(あしやがま)の里 学芸員(左)

新郷 英弘 さん

鋳物師養成員(右)

樋口 陽介 さん

「鋳造」の手法を使って、中国古文字の印鑑作りを楽しもう!

12月に開催される「鋳造ワークショップ古印づくり」で講師を務める「芦屋釜の里」の新郷英弘さんと樋口陽介さん。芦屋釜の魅力やワークショップの楽しみどころをうかがいました。

お二人が所属する「芦屋釜の里」とは何ですか?

新郷
「芦屋釜の里」は福岡県の遠賀(おんが)川河口にある芦屋町という小さな町にある施設です。昔、この地域は芦屋釜と呼ばれる鋳い物ものの産地でした。その鋳造技術は400年前に一度途絶えてしまったのですが、「芦屋釜の里」では芦屋釜の復興に取り組んでいます。
樋口
3000坪の敷地に日本庭園が広がり、そのなかに芦屋釜の工房や資料館、茶室などがありますよ。

芦屋釜について教えてください。

新郷
芦屋釜はお湯を沸かすための釜で、「真形(しんなり)」と呼ばれる形と、胴部にほどこされた美しい文様が特徴です。茶道がまだ「茶の湯」と呼ばれていた時代に茶人たちから茶の湯釜の最上級品として愛されました。文化人として知られる室町幕府第8代将軍の足利義政にも芦屋釜が献上されたという記録が残っています。現在、日本の重要文化財に指定されている9個の茶の湯釜のうち、実に8個が芦屋釜なのです。

お二人はなぜ、芦屋釜復興の道に進まれたのですか?

樋口
私は教師になるための大学で美術を専攻していまして、金属工芸というジャンルを学んでいた時に「芦屋釜の里」でアルバイトすることになりました。そこで芦屋釜に魅了されて鋳物師をめざし始めました。鋳造は陶芸などと違って、制作中は作品の姿が見えません。金属を流し込むための鋳型づくりに2~3ヶ月をかけて、金属を流し込むのはほんの一瞬。制作期間のほとんどは、作品が形となるための〝スキマ〞を作る作業なのです。何もないところから形ができあがるというのが、私にとっては大きな魅力でした。また、数ある鋳物のなかでも、芦屋釜は特に高い技術と芸術性が求められます。そこに挑戦したい、自分の人生を賭けてみたいと思いました。
新郷
私は大学で考古学を学んでいました。考古学を活かした仕事に就きたいと思っていた時に「芦屋釜の里」の学芸員の募集がありました。大学院に通いながら働き始め、今では20年ほど芦屋釜の復興にたずさわっていることになります。芦屋釜の研究をしていておもしろいのは、研究者の方々だけでなく、職人さんとの交流も多いところです。鋳物師はもちろん、陶芸家や刀鍛冶の方々ともよく話をして、いつも刺激をもらっています。

一度途絶えた技術を復興するためには苦労も多かったのでは?

新郷
私の仕事は全国に現存する芦屋釜を調査研究することですが、最初の頃は調査に行くたびに途方に暮れて帰ってきました。なぜなら芦屋釜は非常に薄かったり、美しかったりするものばかりで、調査すればするほど、技術を再現する難しさを痛感したからです。
樋口
芦屋釜は本当に薄い。鋳物は厚さが3ミリでも薄いと言われるなか、芦屋釜は2ミリです。これって鋳型(いがた)に少しでもズレがあれば金属が流れ込まない厚さなのですよ。それを実現していた昔の技術を想像し、再現するのは大変でした。ただ、研究を続けるうちに、茶の湯釜だけにとどまらないさまざまな技術に出会えました。例えば中国の青銅器も鋳物なのですが、とても薄く、1ミリのものまであります。いろいろな分野から知恵を借りて、今に至っています。

今回、なぜ港区でワークショップを開くことになったのですか?

樋口
中国の青銅器について調べている時に、青銅器を数多く収蔵する泉屋博古館(せんおくはくこかん)とつながりができました。青銅器も芦屋釜も鋳造で作られるものですから、鋳造について多くの方に知ってほしいと思い、協力してワークショップを開いています。泉屋博古館は六本木にも分館があるので、今回はゆかりのある港区での開催となりました。

ワークショップの楽しみどころを教えてください。

樋口
鋳造の技術を使ってオリジナルの印鑑を作ります。粘土板に好きな文字を彫って、鋳型を置いて溶かしたスズを流し込みます。文字は、青銅器に使われている古代中国の「金文(きんぶん)」を用います。金文に詳しい研究者に相談しながら、自分の好きな文字の印鑑を作れますよ。
新郷
鋳造を体験できる機会はめったにありません。ぜひ一度「金属を流し込む」という経験をしてみてくださいね!

プロフィール
新郷英弘(しんごうひでひろ)さん

新郷英弘(しんごうひでひろ)さん

2001年から「芦屋釜の里」学芸員として芦屋釜の復興に取り組む。専門を考古学とし、主に釜や梵鐘等の鋳造技術を研究。著作に『釜と金工品』(「茶道教養講座10」、淡交社、2017年)など。

プロフィール
樋口陽介(ひぐちようすけ)さん

樋口陽介(ひぐちようすけ)さん

美術教育を学ぶ大学在学中に「芦屋釜の里」を知り、24歳で鋳物師養成員に。16年間の養成期間が終了する2021年4月に鋳物師として独立予定。2015年佐野ルネッサンス鋳金展 佐野市長賞受賞。

釜の鋳込み
釜の鋳込み

芦屋釜の里 大茶室
芦屋釜の里 大茶室

浜松図真形釜 樋口陽介作
浜松図真形釜 樋口陽介作