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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
SLOW CIRCUS PROJECT(スローサーカスプロジェクト)金井(かない)ケイスケさん

SLOW CIRCUS PROJECT
(スローサーカスプロジェクト)

金井(かない)
ケイスケ
さん

わくわくドキドキ、新しい自分と出会える
「ソーシャルサーカス」に参加しよう!

7月より来年3月まで月に一度、港区立障害保健福祉センターにおいて「ソーシャルサーカス」のワークショップが行われます。ファシリテーターのサーカスアーティスト・金井ケイスケさんに、「ソーシャルサーカス」の魅力などをうかがいました。

ソーシャルサーカスとは、どのようなものなのでしょうか?

「ソーシャルサーカス」とは、さまざまな事情で社会に出ることに困難を感じている人たちが、サーカスの技を練習・習得することを通じて、自己肯定力や問題解決能力、コミュニケーション能力や協調性などといったソーシャルスキルを身につけていくプログラムです。
ソーシャルサーカスは90年代後半くらいから始まったもので、ヨーロッパや南米、カナダなどのサーカスアーティストたちが、貧困や移民、虐待などの問題を抱える人やマイノリティに向けて行った社会貢献活動がもとになっています。私たち「スローサーカスプロジェクト」では、そのプログラムを日本用にアレンジして行っています。

ワークショップでは、具体的にどのようなことをするのですか?

最初は、からだを使った簡単なゲームから行います。サーカスというと空中ブランコや綱渡り、アクロバットやジャグリングなどを想像しますが、ソーシャルサーカスの場合は、参加者の名簿を見ながらその都度、参加者にあわせてプログラムをつくります。例えば車椅子の方がいれば車椅子でも参加できるようなものにしたり、聴覚障害がある方や発語が難しい方がいれば、なるべくからだを使ってコミュニケーションを取れるものにしたりします。
誰でも初対面では身構えるものですが、とくに障害がある方やマイノリティの方は、人との間に壁を感じやすい傾向にあります。そこで、最初にワークショップの内容を説明してから始めるようなかしこまった形はとらず、より自然にコミュニケーションをとっていきます。例えば、ジャグリングや皿回しの道具など、パッと見てきれいな色やおもしろい形の道具を準備し、「あれはなんだろう」「触ってみたいな」と興味を持ってもらい、ファシリテーターが「これ、やってみます?」とか「あれも楽しいですよ」と語りかけるような形で進めていきます。パーティに来たようなわくわくした気分になれるよう、空間づくりも工夫しています。

参加者同士が協力して行うプログラムもあるのですか?

参加者がお互いに協力し合いながら信頼関係を築けるプログラムを多彩に用意しています。例えば、大きな輪になったロープをみんなで持ち、外側に体重をかけて張り合うことでバランスを取るゲームを行うこともあります。また、これは上級者向けですが、1メートルほどの高さから後ろ向きで飛び降りる人を、みんなでキャッチする技もあります。どの技も危険のないよう、少しずつ段階的に練習を重ねていきます。みんなで協力しないとできない技の練習では、自然と協調性が生まれ、成功したときは共に達成感を感じて仲間意識も芽生えます。
こうしたプログラムを体験するうちに、参加者はそれぞれ、自分の殻を破って新しい自分になる体験をしていきます。コミュニケーションに難しさを抱えていた方が相手の目を見て話せるようになったり、夢を持てなかった方が夢を語れるようになったり、上半身麻痺だった方のからだが少しずつ動くようになったり、緊張して力を抜けなかった方が、うまく力を抜けるようになったり……。そうした変化の場面に出会えたときは、この活動をやっていてよかったなと、うれしくなります。

関わっているスタッフは、どのような方々ですか?

スタッフは、普段はダンサーや、ジャグリングやエアリアル(空中演技)のアーティストとして活動している人たちです。ワークショップを進行する「ファシリテーター」、参加者が演技を行ううえで必要なものを準備し、その魅力を最大限に引き出すお手伝いをする「アカンパニスト」(伴奏者)、自宅から会場までの移動などをサポートし、ワークショップがスムーズに進むように準備する「アクセスコーディネーター」などの役割に分かれています。

ソーシャルサーカスを行う醍醐味は、どんなところですか?

このワークショップに参加する醍醐味は、ワークショップを通じて技を習得し、やがて出演者として成長することで、自己肯定力や表現力、コミュニケーションスキルが、さらに磨かれていくところにあります。表現する側になると、「もっとやりたい!」という気持ちが出てくるのです。
また、ソーシャルサーカスは海外の団体も多くネットワークでつながりあっています。海外のサーカスピープルはすごくフレンドリーで、みんな家族のようです。そうしたつながりをSNSを通じて感じることができるのも、醍醐味の一つだと思います。
参加者の方々がソーシャルサーカスで学んだことを家庭や学校や職場にも持ち込み、まわりの人を楽しませることで、ソーシャルサーカスの輪が自然に広がっていくといいなとも思っています。

どのような思いで活動されているのでしょうか?

私はワークショップを進行する立場ではありますが、基本的には誰に対しても、一アーティストでしかないと思っています。私にとって、相手に障害があるかどうかは関係なく、誰かと時間を共有したり、表現しあったりすることのすべてが「新しい体験」です。それは誰にとっても、同じなのではないでしょうか。障害がある方と一緒に何かをするとき、その方々を「助ける」とイメージすることもあるかもしれませんが、本当はそうではなく、「新しい体験」の機会をたくさんもらっているのだと思います。
サーカスには、人と人とをつなげる魔法のような力があります。サーカスの持つ、楽しさや不思議さ、美しさなど、言葉では表現しきれないあらゆる価値を、参加者の方々と共に感じる時間は、とても尊いものだといつも感じています。
「サーカス」は、「サークル」(輪)が語源です。たくさんの方が輪になってつながりあうからこその、ソーシャルサーカスです。今後も多くの方と一緒に、盛り上げていきたいですね。

プロフィール

金井 ケイスケさん

金井 ケイスケ(かないけいすけ)
サーカスアーティスト。「SLOW CIRCUS PROJECT(スローサーカスプロジェクト)」ディレクター。中学生で大道芸を始める。文化庁国内研修員として能を学んだ後、文化庁海外派遣研修員として、日本人で初めてフランス国立サーカス大学(CNAC)へ留学。卒業後フィリップ・ドゥクフレ演出のサーカス作品でヨーロッパツアー後、フランス現代サーカスカンパニーを立ち上げ世界35カ国で公演。2009年帰国。2015年より「SLOW LABEL(スローレーベル)」パフォーミングディレクター。

SLOW CIRCUS PROJECT

「SLOW LABEL(スローレーベル)」より発足した、日本で初めての、ソーシャルサーカスを普及・実践するカンパニー。ソーシャルサーカスとは、サーカス技術の練習や習得を通じて協調性・問題解決能力・自尊心・コミュニケーション力などを総合的に育むプログラム。世界各地で貧困・難民・虐待などに起因するマイノリティのエンパワメントに活用されている。「SLOW CIRCUS PROJECT」は、2017年よりシルク・ドゥ・ソレイユのサポートを受け、イタリア、アジア、南米など世界各地でソーシャルサーカスを実践する団体と連携しながら、多分野の専門家と共にプログラムを開発。中学校や障害者福祉施設、子育て世代や次世代ビジネスリーダー向けなど多方面でのプログラム実践や、障害のある人とのパフォーマンス創作、トレーニングなどに取り組んでいる。

ソーシャルサーカス・ワークショップの様子

金井 ケイスケさん

公演の様子 写真:冨田了平

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お知らせ: ソーシャルサーカス ~サーカス団員(だんいん)といっしょにパフォーマンスを楽(たの)しもう!~