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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
東京演劇集団風

東京演劇集団風
(とうきょうえんげきしゅうだんかぜ)

「バリアフリー演劇」を通して、
あらゆる人に新しい“ ”を届けたい 

3月に赤坂区民センターにて、東京演劇集団風によるバリアフリー演劇「ヘレン・ケラー~ひびき合うものたち」が上演されます。風の江原早哉香(えはらさやか)さんに、風の目指す「バリアフリー演劇」とはどのようなものなのか、また、今回上演される作品の見どころなどについてうかがいました。

バリアフリー演劇とは、どのようなものですか?

東京演劇集団風のバリアフリー演劇では、手話通訳や聴覚障害者用の音声案内など、すべての環境を共有し、あらゆるバリアを超えて、みんな一緒に楽しめる芝居を目指しています。
手話通訳者は情感たっぷりに通訳し、他の役者とアドリブで絡むこともあります。通常、手話通訳者は役者の後ろで静かに通訳するため、当初はなかなか前に出てくれませんでした。でも「あなたは黒子ではなく、演劇を構成するメンバーの一人であり、“もう一人の役者”です。だから遠慮せずに前に出て、自由に動いて手話通訳をしてください」とお願いしたところ、今では堂々と前に出て、まるで役者のように豊かな表現力を発揮しています。あるとき視覚障害のある高齢の女性が、通訳者がのびのびと振る舞っている様子を感じて、「私たち障害者は、取り残されていないと感じたよ」と伝えてくださり、涙が出るほどうれしかったです。

バリアフリー演劇で伝えたいことは、どんなことですか?

芝居や舞踏などの芸術は、もともとは雨乞いなどの祈りとして、みんなで地面を踏み鳴らすなどしていたことが原点になっています。そのときはもちろん、演者と観客との境目はなく、障害者も健常者もありません。このバリアフリー演劇の根底には、そうした芝居の原型に近いものがあると感じています。
「障害者」という言葉に対し、「健常者」などと言うことがあります。しかし健常者といっても実にさまざまで、誰でも、何かしらのバリア(生きづらさ)を抱えているものです。バリアフリー演劇について研究していく中で、障害のあるなしに関わらず、バリアとは、本当にいろいろなところに存在していることに気づかされます。
例えば私は、いつも「優れた芝居をつくらなければならない」と思ってしまいますが、「こうあらねば」というのもバリアの一つです。自分でも、そうしたバリアをつくるのをやめて、もっと自由に芝居をつくっていきたいと思っています。
その一方で、自分の中にバリアと感じる弱い部分があるからこそ、さまざまなことを繊細に感じ取り、感じたことを誰かと共有したい、表現したいという気持ちになり、創作物が生まれます。そうした意味では、その弱い部分は自分にとって必要なものであり、大事にしなければならないものなのかもしれません。
皆さんも、普段は、自分の中のバリアに蓋をしているかもしれませんが、バリアフリー演劇との出会いをきっかけに、そのバリアにちょっと意識を向け、プラスとして捉えるきっかけにしてもらえたら、と思います。

これまでの上演で印象深かったことは?

長崎県の小さな島での一般公演では、知的障害のある子が舞台上に上がってきたことがありました。役者たちはその子の動きに合わせ、アドリブを加えながら芝居を続けました。最後にはその子の父親が客席の前に出て謝っていましたが、その声が掻き消されるほどの拍手喝采で、観客の方々は「頑張ったね」「よかったよ!」とその子の活躍を応援し、楽しんでいました。するとその様子を見て、急に大声を出したり、じっとしていられない傾向にあるお子さんを持ち、コンビニにも連れていけないという親御さんが、「劇場で騒いでも大丈夫なら、うちの子もどこにでも連れて行けるね」とおっしゃってくれたのです。そうして何かにバリアを感じている人の気持ちが少しでも変わったときは、この芝居をやって本当によかったと思います。

バリアフリー演劇「ヘレン・ケラー」の見どころは?

「ヘレン・ケラー」は30年前から繰り返し上演しています。私たち風の「人や社会に、新しい風を届けたい」というアイデンティティを表しているような、思い入れの強い作品であり、バリアフリー演劇の初作品でもあります。ヘレンが視覚・聴覚障害を克服して言葉を獲得するサクセスストーリーとして描かれることが多い物語ですが、私たちはそれに反旗を翻したい思いです。重要なのは障害を克服することではなく、ヘレンが本来持っている豊かな心が、家庭教師のアニーとの出会いによって開かれていくところにあると思っています。
アニーは苦悩し失敗を重ねながらも、ヘレンとともに、教師としても、人間的にも成長していきます。誰かと本気で何かを成し遂げようとするときは必ず衝突が生まれますが、人と人とは、そうして本当の意味で出会っていくものなのだと、この作品は教えてくれます。ある意味、子どもはヘレンと同じような存在です。思いをうまく伝えられないもどかしさを抱えながらも、大きな可能性がその中にはすでにあるのです。誰もが昔はそうした子どもであり、成長していく過程でアニーのような、ともに歩んでくれる存在がいたことにも、気づいてもらえたらうれしいですね。
今回の赤坂公演は、バリアフリー演劇としては、都内の公共ホールで初めて上演される貴重な機会です。「風」の描く、感性の豊かなヘレンや、とても人間らしいアニーに、ぜひ、会いに来てください!

プロフィール

東京演劇集団風

東京演劇集団風(とうきょうえんげきしゅうだんかぜ)
「今、なぜ演劇なのか、この時代、この社会において演劇の為すべきことは何であるか」という問いとともに1987年に創立。1999年、東京・東中野に専属の拠点劇場「レパートリーシアターKAZE」設立以降は、年間6~8本のレパートリー作品と新作を上演。青少年を対象とした全国巡回活動も意欲的に行う。さまざまな個性を持つ子どもたちと一緒に演劇を楽しむ方法を10年ほど試行錯誤した経験をもとに、バリアフリー演劇を開発。初演は2019年の「ヘレン・ケラー」で、その後2作品を開発・上演している。写真は、芸術監督の江原早哉香さん。レパートリーシアターKAZEでの公演、機関誌の発行など多面的に創造活動を行っている。

レパートリーシアターKAZE

東京演劇集団風の拠点劇場である「レパートリーシアターKAZE」(東中野)には、定員113席の劇場をはじめ、コミュニティスペースや劇団員の稽古場、事務所などがある。

掲示板

「レパートリーシアターKAZE」の入り口にある掲示板では、過去の公演写真や、劇団の紹介記事などを閲覧できる。

江原早哉香さん

2019年にスタートした「バリアフリー演劇」の制作に、プロデューサーとして携わってきた江原早哉香さん。

チケット間もなく発売!
バリアフリー演劇「ヘレン・ケラー~ひびき合うものたち」のチケットが間もなく発売されます。
詳しくはこちらをご覧ください。