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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
映画監督 川和 田恵真さん

映画監督

川和田恵真さん
(かわわだえま)

日本で暮らすクルドの人々の物語
大きなスクリーンでご覧ください!

第2回みなとシネマフェスタで12月4日に上映される映画『マイスモールランド』。その監督・脚本を務めた川和田恵真さんに、映画監督をめざしたきっかけや、本作の制作秘話をうかがいました。

映画監督になろうと思ったきっかけは?

もともとは脚本を書きたいと思っていたんです。ところが大学に入り、いざ脚本を書いてみたら、それを作品にするには自分で撮るしかないことに気づきました。そこでサークルの友人たちに声をかけ、自主制作で映画を作りました。映像制作の経験がほとんどない人が集まって作ったのですが、現場に出て、人と一緒にひとつのものを作り上げる喜びを知りました。
また、在学中に撮った『circle』という作品が東京学生映画祭で準グランプリを受賞し、大勢の前で上映する機会に恵まれ、映画を通して自分の思いが伝わっていくことに大きな感動を覚えました。そうしたことが重なり、学生のうちから「映画監督を仕事にしたい」と考えていました。

世界的に活躍する是枝裕和監督の助手を務めた経験もあるそうですね。

はい。通常、監督助手は撮影現場だけ関わることが多いのですが、是枝監督は企画段階から取材、撮影、公開や映画祭出品まで、全ての過程に立ち会わせてくださいました。
私が長く関わったのは『三度目の殺人』という映画でした。是枝監督は「どうしたら作品がよりよいものになるか」を常に考え、周囲の声をしっかりと聞く方です。当時はまだ大学を卒業したばかりの私にも「今のどうだった?」と何度も尋ね、私の言葉に対しても真剣に考えてくださいました。その柔軟な姿勢は私の目標です。
『マイスモールランド』でも、出演者の皆さんやスタッフの皆さんとの会話からヒントを得たシーンは数多くあります。作中、絵を描くシーンがたびたび登場するのですが、それは聡太役を演じた奥平大兼さんが「絵が好き」と言っていたからです。配役が決まってから、役の人物像を肉づけしていきました。

本作で在日クルド人をテーマにしたのはなぜですか?

7年前、ある1枚の写真を目にして衝撃を受けました。そこには大きな銃を持ったクルドの女性兵士が写っていました。「自分と同じ年代の女性がなぜ戦っているのだろう?」と疑問に思い調べたところ、国を持たないクルド民族は大国に翻弄された歴史をもち、自分の居場所や家族を守るために戦わねばならない状況にあることを知りました。そして、日本で難民申請をして暮らすクルド人が約2千人いることも。ところが日本の難民認定率はとても低く、多くは苦しい生活を強いられています。彼らは日本に逃げてきたのに、また〝戦い〟の中にいます。クルドのことをもっと知りたいと考え、在日クルド人の家族に会いに行ったのが企画の始まりでした。
商業映画として成立できる確信が、最初からあったわけではありません。ただ、私自身がイギリス人の父と日本人の母をもつミックスルーツであることから、国籍にまつわる作品を作りたいという想いは根本にありました。

取材に2年近くかけたと聞きました。そのなかで印象に残っていることは?

クルド人の皆さんはとても朗らかで、いつも温かく迎えてくださいました。それでも、入管の話になると表情が変わります。入管での収容は期限が決まっていません。家族が収容されている方が、「不治の病にかかったようだ」と言ったときは、とても心が痛みました。
当初は在日クルドの人々に『マイスモールランド』に出演してもらおうと考えていました。ですが、難民申請中の人にとって、大きなメッセージを背負う映画に出演するのは大変なリスクを伴います。取材を通して、私自身がその危険性を理解していきました。そこで、さまざまなルーツを持ちながら日本で暮らす人を対象にオーディションを行いました。
主人公のサーリャ役に決まった嵐 莉菜さんは、日本生まれの日本育ちですが、5ヶ国のミックスルーツ。オーディションで「自分のことを何人と言っていいかわからない」と話してくれました。その葛藤は『マイスモールランド』にも通じるもので、彼女とならこの映画を一緒に作れると感じました。

作中、日本人の悪意のない言動に主人公が傷つく場面があります。観る側としては「知らず知らずのうちに自分もやってしまっているのでは」という気づきがありました。

そういう感想をいただくことは多いです。最近は、無意識に人を傷つけてしまう言葉や行動を「マイクロアグレッション」と呼ぶこともありますね。私はそこまで強く意識したわけではなかったのですが、私自身の経験ももとに、「この状況ならこういった言動がきっとあるだろうな」と思ったことをストーリーに組み込んでいきました。
『マイスモールランド』の公開以来、観客の皆さんからさまざまな質問や意見をいただきました。この映画を通して、クルドやミックスルーツへの理解が少しでも深まれば嬉しいです。

第2回みなとシネマフェスタを楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

『マイスモールランド』は日本における難民申請の現状や、海外にミックスルーツを持つ人のアイデンティティをテーマにしています。この作品を通して、知らないことに出会っていただけたら嬉しいです。当日、会場で皆さんとお会いできることを楽しみにしています!

プロフィール

映画監督 川和 田恵真さん

川和 田恵真
1991年生まれ、千葉県出身。イギリス人の父親と日本人の母親を持つ。早稲田大学在学中に制作した映画『circle』が、東京学生映画祭で準グランプリを受賞。2014年に「分福」に所属し、是枝裕和監督の作品等で監督助手を務める。2018年の第23回釜山国際映画祭「ASIAN PROJECT MARKET (APM)」で、アルテ国際賞(ARTE International Prize)を受賞。また2022年、商業長編映画デビューとなる『マイスモールランド』が第72回ベルリン国際映画祭に出品され、アムネスティ国際映画賞スペシャルメンションを授与された。

映画監督 川和 田恵真さん
映画監督 川和 田恵真さん
映画監督 川和 田恵真さん

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