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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
歌舞伎役者 中村芝翫一門 屋号 成駒屋 中村 橋吾(なかむら はしご)さん

歌舞伎役者 中村芝翫一門 屋号 成駒屋

中村 橋吾さん
(なかむら はしご)

歌舞伎の動きを体験して楽しみながら心と体を鍛えよう

5月13日(土)に「なりきり歌舞伎体操講座」が開催されます。歌舞伎体操とは、肉体芸術であり全身運動でもある歌舞伎の動きを取り入れた体操です。講師の歌舞伎役者、中村橋吾さんに、歌舞伎や歌舞伎体操の魅力について教えていただきました。

歌舞伎役者になろうと思ったきっかけは何ですか?

子どもの頃から人を喜ばせることが好きで、人とは違う職業に就きたいという理由から歌舞伎役者に興味を持ちました。高校卒業後に歌舞伎俳優を目指して、国立劇場養成所の歌舞伎俳優研修生になりました。私の生まれ育った山形県鶴岡市には古くから農村歌舞伎「黒森歌舞伎」があり、今日でも上演されています。子どもの頃から身近に歌舞伎があったことも、歌舞伎役者に対する興味を育くむ土壌となっていたのかもしれません。

歌舞伎を学びはじめた頃は、どんな印象を持ちましたか?

歌舞伎の世界のことを何も知らないまま養成所に入ったので、姿勢や歩き方、言葉遣いや声の出し方についても一つひとつ学びながら感動していました。歌舞伎とは演劇なのだということを知ったり、歌舞伎の型(伝統的な表現方法)を学んだり、体験することすべてが新鮮でした。型は先人たちが工夫を積み重ねてできあがったもので、深い意味が込められています。400年以上の歴史がある歌舞伎という伝統文化が今も残っていること自体が素晴らしいことです。歌舞伎という伝統芸能と、それを支えてきた方々にはずっと尊敬の念を抱いています。

歌舞伎の魅力は、どのようなところにありますか?

歌舞伎の舞台の魅力は、まず「役者が持っている人間力、パフォーマンス力」にあると思います。歌舞伎役者は肉体全体を使って表現し、広い劇場でも客席のお客さまにマイクなしで声を届けます。見えないところで舞台を支えている人たちも大勢います。まさに人間がつくりあげる総合芸術です。歌舞伎の素晴らしさは、物語の奇想天外さ、新しいものを取り入れていく斬新さにもあると思います。たとえば、最近私が出演した「新作歌舞伎ファイナルファンタジーX」も新しい挑戦です。ゲームの世界の物語も、人間力の高い歌舞伎によって表現することで説得力が生まれます。
歌舞伎役者という職業の魅力は、子どもから年配の方まで幅広い年齢の仕事仲間がいることです。師匠(八代目芝翫)の芝居に憧れ、背中を見て学び、多くの先輩方に出逢い、亡くなられた先輩に想いを馳せることも多く、「あの方だったら、こうするだろう」と演技に取り入れることもよくあります。先人への尊敬の念の積み重ねから技術の土台がつくられ、現代文化や若い人の感性を取り入れることで、新しい発想が生まれます。主役を支える脇役の技術も、伝統的な土台に新しさをうまくはめ込むことで、いっそう洗練されていきます。

歌舞伎体操とは、どんなものですか?

歌舞伎体操はワークショップ「歌舞伎はじめ」のなかで行っているものです。「歌舞伎はじめ」では、歌舞伎の歴史や私自身が感じてきた歌舞伎のおもしろさを伝え、歌舞伎役者の動きや声の出し方を実践してもらっています。歌舞伎の動きは健康を維持するために、身体的にもメンタル的にも理にかなっています。体の使い方一つでこんなに変わるのかというくらい、心や体、目線や雰囲気まで変わります。人前に立つことの大切さを実感し、人間力も育まれます。歌舞伎体操を体験すると、歌舞伎鑑賞が100倍楽しくなり、人生も100倍楽しくなるかもしれませんね。私自身がそうだったように、歌舞伎の沼にはまって抜け出せなくなるかも(笑)! ぜひ、歌舞伎体操を体験していただきたいですね。

歌舞伎体操のワークショップで印象的だった出来事はありますか?

歌舞伎の地方公演では、入場は6歳以上からという制限がある場合があります。ところが歌舞伎体操のワークショップには年齢制限はなく、小さな子どもたちも一緒に参加できます。意味がわからなくても楽しめますし、体験することが大事です。
以前、小学校の子どもたちに歌舞伎体操のワークショップを行いましたが、とてもおもしろがってくれました。そこで出逢った1年生の女の子が、私のことを「知っている!」と言ったんです。その子は小学校に入るとき別の地域から引っ越してきたそうで、幼稚園に通っていたとき、私のワークショップを受けたことを覚えていてくれました。そのときは親御さんもいらしたのですが、「歌舞伎体操を幼稚園でやって以来、"耳、肩、腰は一直線"(歌舞伎の基本の正しい姿勢のつくり方)を、遊びながらやっています」と話してくれました。幼稚園でやったことを覚えていてくれて、とても嬉しかったですね。
このように歌舞伎を伝え、それを楽しみながら実践してくれているお子さまを目の前にしたとき、役者をやってきて本当に良かったと実感しました。役者として人を喜ばせることが自分の仕事だと思っていましたが、改めて、「役者に人生を賭けていこう」と決意した瞬間でした。
歌舞伎体操は、小さな子どもから年配の方まで、年齢に関係なく学べる文化学習として、大きな手応えを感じています。近年、日本人は伝統文化からどんどん離れていってしまっています。今後も、歌舞伎体操を、日本らしさを学べる気軽で素敵な体験として提供していきたいと思っています。

プロフィール

歌舞伎役者 中村芝翫一門 屋号 成駒屋 中村 橋吾(なかむら はしご)さん

中村 橋吾
山形県鶴岡市出身。歌舞伎役者。屋号は「成駒屋」。1998年国立劇場第15期歌舞伎俳優研修生となり、2001年中村橋之助(現・中村芝翫)一門に入門。歌舞伎座を中心に国内外の劇場公演に出演。パフォーミングアートの発信や歌舞伎体操の講師など多方面で活躍中。歌舞伎体操とは、書籍『なりきり歌舞伎体操』(医学博士・湯浅景元監修/ポプラ社刊)で紹介された体操。書籍ではモデルを務めた。

歌舞伎役者 中村芝翫一門 屋号 成駒屋 中村 橋吾(なかむら はしご)さん 歌舞伎役者 中村芝翫一門 屋号 成駒屋 中村 橋吾(なかむら はしご)さん 歌舞伎役者 中村芝翫一門 屋号 成駒屋 中村 橋吾(なかむら はしご)さん

イベント情報

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