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ふれあいコラム

今、話題の人物をクローズアップ!
播与漆工芸教室主宰 箕浦和男

播与漆工芸教室主宰

箕浦 和男さん
(みのうらかずお)

割れた器も、自分で直せば愛着がわく!
金継の楽しさと奥深さを知ってほしい

5月から7月にかけて、赤坂区民センターで、生涯学習講座「SDGs 直して育てる~金継を知ろう『初級編』」が開催されます。毎回、定員を超える応募がある大人気の講座です。講師を務める箕浦和男さんに、金継の魅力や、講座の楽しみどころを伺いました。

金継とはどのようなものか教えてください。

欠けたり割れたりした器を、漆を使った昔ながらの技法で修繕するのが金継です。
大まかな工程としては、漆と小麦粉を混ぜたもので割れた部分を接着します。欠けた部分は、漆・ご飯粒・木粉を混ぜた刻苧漆(こくそうるし)で埋めます。そして表面を漆でコーティングし、研いで滑らかにして、最後に金粉を蒔きます。「金継」と呼ばれていますが、金は仕上げに使うだけ。金ではなく銀やすずを使うこともあります。
乾きの早い合成樹脂を使えば短時間で仕上げることもできますが、器は口に触れるものですから、身体や環境に優しい天然の材料にこだわった金継の技術をお伝えしています。

小麦粉など、身近な材料を使うのですね。

小麦粉を接着剤として使うのは、口にしても安全な天然素材の中で強力にくっつく素材だからです。ほかにも、上新粉、白玉粉、わらび粉などを用いることがありますが、小麦粉がもっとも強力です。
布や木ならば温度や湿度の変化によって伸び縮みしますが、陶器は変形しません。そのため陶器を修理する時は強い接着剤を使うのです。

金継の歴史について教えてください。

実は、詳しいことがわかっていません。例えば、昔はどのような素材で接着していたのか、いつ頃から金継に金が使われるようになったのかなど、記された書物が残っていないのです。
歴史上、代表的なものとしては国指定重要文化財の「馬蝗絆(ばこうはん)」と呼ばれる器があります。これは13世紀に中国で作られた青磁の茶碗で、もともと平重盛に贈られたものでしたが、やがて足利義政の手に渡りました。ひびが入ったため、義政が「代わりのものがほしい」と中国に返したところ、「これ以上の青磁の器はない」と、鉄のかすがいでひびを留めたものが送り返されてきたといいます。金は使われていませんが、馬蝗絆は金継の器としてもっとも有名といってよいでしょう。

箕浦さんはいつから金継に関わっているのですか?

家業が天然漆や漆芸道具を扱う会社で、私自身は40年ほど前に入社しました。金継は漆との関わりが深いため、漆のことを学ぶうちにしぜんと金継についての知識も身につきました。
一般の方が日常生活で漆を扱うことはめったにありませんよね。専門家だけが使うものです。もっと多くの方に漆に親しんでいただきたいという思いがあり、約20年前に「金継セット」を開発しました。先々代から受け継がれた漆芸の手順にアレンジを加え、初心者の方でも気軽に金継を楽しめるよう、材料や道具一式をセットにしたものです。当時はこうした金継セットは日本のどこにも売っていませんでした。
近年は趣味として金継に興味を持つ方がとても増えました。私たち(播与漆行)が主宰する金継教室がメディアの取材を受けることも珍しくありません。人気が高まったきっかけの一つが、東日本大震災でした。割れたり壊れてしまった思い出の品を、直して使い続けたいと考える方が多かったのでしょうね。

5月から開催される金継の講座の楽しみどころを教えてください。

講座では、皆さまに直したい陶磁器を2~3個お持ちいただき、金継の技法を用いてご自身の手で修繕していただきます。茶碗やお皿、花瓶、茶道具の香合など、持ち寄るものは何でもかまいません。器の傷み具合がそれぞれ異なりますので、各自のペースで作業を進めていくとよいでしょう。本当は、割れたものをくっつけるだけでなく、あしらいに個性を出したり、芸術性を高めたりすることも大切なのですが、そこはなかなかお教えすることが難しい部分です。今回の講座は初心者の方が対象となりますので、「壊れたものを直すこと」がゴールになります。ぜひ、未知なることを学ぶ楽しさや、金継ぎの奥深さを味わっていただければと思います。
金継の魅力は、壊れたものが直ってみんなが笑顔になれるところ。手間をかけて直すことで、これまで以上に愛着がわくはずです。壊れたものを捨てて新たに買うことは簡単ですが、金継の技術を身につけて、「直す」という選択肢も加えていただければうれしいです!

生涯学習講座「SDGs 直して育てる~金継を知ろう『初級編』」についての詳しい情報は こちら をご覧ください。

プロフィール

播与漆工芸教室主宰 箕浦和男(みのうらかずお)さん

箕浦 和男
江戸時代から続く天然漆の専門店、播与漆行(はりよしっこう)の6代目当主。(一社)日本漆工協会理事、全国漆業連合会副会長、東京漆睦会会長などを歴任。現在は漆アドバイザーとして、各地で開催される金継教室の講師を務めるなど、漆文化の継承と金継の振興に尽力している。

修復前

(左)割れている部分に漆を塗り、乾かしたもの。(中央)割れを接着し、欠けを埋めた後、マスキングテープで固定して乾燥させているところ。(右)漆を塗り、研いで、表面を滑らかにしたもの。金を蒔かずに、ここで完成とする人もいます。

修復後

左から、金で仕上げたもの、すずで仕上げたもの、銀で仕上げたもの。

修復後

大きく欠けた器や、ひびが入った器など、破損の状態によって作業内容が変わります。講師の箕浦さんや指導スタッフの皆さんが、受講者一人ひとりの作業内容に合わせてアドバイスします。