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港区探訪

港区の偉人

第3回 川瀬巴水(はすい)(木版画家)(1883~1957)

写真

▲上の写真は港区のどこかで撮影しています。さて、どこでしょう?答えはこちらをクリック

「今の私に何が好きだと聞かれましたら
即座に旅行! と答へます」

「川瀬巴水 創作板画解説」より

日本全国を旅しながら写生した原画をもとに、生涯で600点もの風景版画を制作。版元である渡邊庄三郎とともに、新版画という新時代の芸術を生み出した。
四季折々の風景が見せる豊かな表情を描いた作品は、海外からの評価も高い。

川瀬巴水(木版画家)写真

役者絵・武者絵に興味を抱いた幼少期
夢をあきらめきれずに画家の道へ

川瀬巴水(本名・文治郎)は、1883年、東京市芝区露月町(現在の新橋5丁目)に生まれました。幼少期から絵を見るのが好きで、絵草子屋に通っては役者絵や武者絵を眺めていた巴水は、14歳の頃から画家に弟子入りします。家業を継ぐことを勧める周囲の反対により一時は絵の道から離れますが、夢をあきらめきれず、近代日本画の巨匠である鏑木清方(かぶらぎきよかた)の門を叩きます。

キーワード:入門

25歳で入門を願い出た巴水。一度は年齢を理由に断られるも、そこで勧められた洋画を学びつつ門下に出入りして腕を磨きます。2年後に入門を許可されて「巴水」の名を与えられました。

運命を決めた版元との出会い
新版画絵師の中心人物として開花

1918年、巴水は同門の伊東深水(いとうしんすい)の木版画に刺激を受け、自らも版画制作に取組みます。幼年期に暮らした栃木・塩原の風景を描いた3部作『塩原連作』は、渡邊庄三郎という版元から出版されました。庄三郎は当時衰退気味であった浮世絵版画を守るべく、画家・彫師・摺師が三位一体となって制作する新しい時代の浮世絵、「新版画」を提唱した版元です。これをきっかけに巴水は、風景画の絵師として庄三郎の元で仕事を任せられるようになります。

『塩原おかね路』(1918年)

その後、各地への写生旅行から題材を得た『旅みやげ第一集』の出版や、庄三郎による新作展覧会への出品を通して、巴水は木版画家としての地位を確立。技術に磨きをかけながら、自身が住んでいた芝愛宕下町周辺の風景を描いた作品も多く残しています。

『麻布二の橋の午後』(1921年)

キーワード:渡邊木版畫舗

渡邊庄三郎が興した版元・渡邊木版畫舗は、大正から昭和にかけて新時代の浮世絵を次々と発表しました。1943年に株式会社となり、現在も数多くの浮世絵・版画を取り扱っています。

関東大震災と102日間の写生旅行

1923年9月に関東大震災が発生。版木やスケッチを失い大きなショックを受ける巴水に、版元の庄三郎は新たな写生旅行を勧め激励しました。焼け残った版画作品を旅費として譲り受け、巴水は東京から北陸、中国、近畿を回る102日間にも及ぶ旅に出ます。生涯で最長となったこの旅は、巴水にとって大きな糧となりました。旅と旅の間にも精力的に制作を続け、代表作『芝増上寺』 等当時大変な人気を集めた作品も手がけています。

『芝増上寺』(1925年)

キーワード:写生旅行

巴水は生涯の3分の1を旅に費やしたといわれています。北海道や朝鮮半島にも足を伸ばし、晩年は「風景が版画に見えるようになった」と語るほど、旅は巴水の人生になくてはならないものでした。

朝鮮旅行を経て新たな作風へ
円熟期を迎えた晩年

昭和に入り、戦争や自身のスランプ等でふさぎがちだった巴水でしたが、朝鮮旅行の誘いを受け、再び約1ヶ月の写生旅行に出ます。この旅のスケッチをもとに『朝鮮八景』『続朝鮮風景』を出版。さらに海外企業のカレンダーや小学校の校章図案等制作の幅を広げ、個展や二人展を開催したり、展覧会へ出品したりとエネルギッシュに活動します。

過労がたたってか、1957年2月、胃がんを患い入院。その年の11月に74歳で生涯を閉じました。病床にありながらも制作中の作品を常に気にかけていたといいます。版画と旅とともに生きた巴水は、最後まで歩みを止めずに芸術史に足跡を残しました。

『雪庭のサンタクロース』(1950年頃)

偉人の足跡

増上寺

代表作「芝増上寺」で描かれた増上寺の三解脱門。他にも、麻布や芝公園等港区内にある風景を描いた作品が数多く残っています。

写真

港区芝公園4-7-35
TEL 03-3432-1431
JR・東京モノレール「浜松町駅」10分
都営地下鉄三田線「御成門駅」「芝公園駅」3分
都営地下鉄浅草線・大江戸線「大門駅」5分

写真の答え!
『思い出のパッケージ』(麻布十番)

麻布十番商店街に12基ある「微笑みのモニュメント」のひとつ。オーストラリア大使館の協力により作られました。旅行カバンやお土産をモチーフに、旅人との愛情あふれる「袖のふれあい」を表現しています。
撮影協力:麻布十番商店街。

『思い出のパッケージ』(麻布十番)

参考:「川瀬巴水 木版画集」(阿部出版)「川瀬巴水 作品集」(東京美術) 取材協力・資料提供:(株)渡邊木版美術画舗