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抽象的な形が、想像力をかき立てる「花鳥風月」。地下鉄の駅という空間に広がる風雅な世界は、日常の煩わしさを、ひと時忘れさせてくれそうです。
都営地下鉄大江戸線青山一丁目駅の南青山方面改札を出ると、前方に広がるモノトーンのアート作品に目を奪われます。8個のモチーフは何を表現しているのでしょうか。作品名は「花鳥風月」とあります。
「青山一丁目という、ファッショナブルでおしゃれなエリアに、あえて古典的なテーマで挑みました。」と作者の一人である飯塚一朗さん。自然を慈しみ、楽しむという日本人の風雅な感性を、花、鳥、風、月というモチーフで表現。障子の向こう側で、ろうそくの炎がゆらゆらと燃えているという日本古来の情景を描写したのだそうです。なぜか懐かしさを覚えるのは、DNAに組み込まれた和の心に響いているからなのかもしれません。
「父、飯塚八朗がモチーフを描き、私たちがその他一切を担当しました。当時、父は高齢で対応することが困難だったため、当時のスタジオ707のメンバーと私が、率先して動いたというわけです。大江戸線の開業に間に合わせなければならないため、難しいことも多かったので、この作品は特に印象深いですね。」
近づいてみると、抽象的な形状のモチーフの息遣いが感じられます。
不思議ですね。上下、左右と角度を変えてご覧ください。
「父が描いたモチーフを、この空間にどう表現するか。板の素材、厚み、仕上げ、光のこぼれ方等、悩みに悩みました。」
子どものころから、本物のアートにふれ、自然とこの世界へ足を踏み入れたという飯塚さん。
「父は常に、作品は、受け取った人の頭の中で完成するものであると言っていました。イメージを押し付けるのはダメだと。その人の心が動き続けるということが大切なのだと思います。公共の空間にあるアートはその地の文化の発信源。森の樹木を育てるように、みんなで楽しめるものにしたいという思いを込めました。」
制作時の図面とモチーフの試作用資料。
モチーフを何枚もスケッチし、トレースしたものを拡大して作品を作ります。
通常は作品完成後に処分してしまう作品模型。
「花鳥風月」は、特に印象深い作品なので、現在も社内に飾ってあるそうです。
【花】 色、形等、見る人によりイメージが膨らむ花。
【風】頬を撫で、花を揺らし、ビルの間を吹き抜ける風。
【鳥】羽を広げ、大きな空を自由に飛び回る鳥の姿。
【月】夜空にぽっかりと浮かぶ満月・満ち欠けする月と雲。
実は、青山一丁目という地名は、過去も現在も存在しません。大江戸線青山一丁目駅の住所は北青山一丁目、銀座線、半蔵門線の住所は南青山一丁目となっています。
1938年(昭和13)年に銀座線青山一丁目駅が、1978年(昭和53)年には半蔵門線青山一丁目駅が開業。2000年(平成12)年に大江戸線青山一丁目駅が開業しました。2015年度のデータによると、大江戸線青山一丁目駅の一日平均乗車人数は37,653人、一日平均降車人数は37,226人で、銀座線、半蔵門線より多くの利用者があります。サービス向上にも努めていて、公衆無線LANが利用できたり、ホームの安全対策やテロ対策にも力を入れているそうです。
都営地下鉄大江戸線は、コンペ等で選ばれたパブリックアートを全駅に設置しています。普段は移動の手段として何気なく利用している駅ですが、設置されているパブリックアートを鑑賞するために、訪れてみるというのも一興なのではないでしょうか。
飯塚一朗
株式会社スタジオ707代表。新江ノ島水族館ブランディングディレクター。
宇都宮こども科学館彫刻・風の樹SDA(sign
designaward)受賞。福島第二原子力発電所彫刻・エネリズムSDA(sign design
award)受賞。北名古屋市彫刻コンペ受賞。地下鉄大江戸線空間デザインディレクションコンペ4駅受賞。港区内の作品も、パークコート赤坂ザ・タワー、戸板女子短期大学等多数展示。著書は「水はいらない水族館~水族館のブランドデザイン論~」、「Design
No Concept」等。
〒107-0061
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TEL 03-3478-6763