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港区探訪

一度は訪ねたい 港区のアート&施設

第8回 JR品川駅

「光の情景」写真

屋内にありながら、光や風といった自然を感じられるアートです。色のグラデーション、リズミカルな形状に、心も弾みます。

人々の心に寄り添い愛され続けるアート

ご存知でしょうか。品川駅は港区にあるのです。さっそくアートを探してみましょう。東西自由通路を高輪口方向へ進むと見えてくるのが、ステンドグラス「光の情景」です。

響き合うガラスと光

1998年に設置されたこのアート、高さ1.8m、幅13.4mの大迫力に圧倒されます。色とりどりのガラスが連なり、天と地に繰り広げられる四季の風景が表現されています。作者は麻生秀穂(あそうひでほ)さんです。

ステンドグラスとは、色付きのガラスのかけらをつなぎ合わせ、絵や模様を表現したもの。教会の窓を装飾したのが始まりと言われています。外部からの光を通したガラスは、季節や時間によって変化し、さまざまな表情を見せてくれます。光によって完成するアートなのです。

では「光の情景」をじっくり鑑賞してみましょう。

春には柔らかい光が降り注ぎ、木々が芽吹きます。しとしとと降る雨が晴れれば、空には虹が。じりじりと照り付ける太陽の光。暑い夏には涼やかな風が吹き込みます。耳をすませば虫の音が聞こえてきそうな秋。月を愛でる季節です。北風がピューと吹いて枯葉をまき散らす冬の光は透明で、まるで氷のよう。思い出も一緒によみがえってくるかもしれません。

スマホに夢中になったり(歩きスマホはもちろん禁止ですが)、うつむきながら歩いていては目にすることができないアートです。

「トライアングルクロック」と 郵便ポスト 写真

写真左)広い空間で目印になる「トライアングルクロック」周辺には、待ち合わせをしている人が多くいます。
写真右)コンコースにあり、おもちゃのようにかわいらしい形ですが、もちろん本物の郵便ポストです。

これもアート!?

品川駅中央改札付近で待ち合わせといえば、この時計台ではないでしょうか。正式名称は「トライアングルクロック」といいます。支柱をよく見てください。海が近いエリアということにちなんでカモメがデザインされています。

中央改札を通り、右手前方へ進むとオレンジ色のオブジェが見えてきました。電車を模しているのでしょうか。郵便マークがついています。実はこれ、郵便車型ポストです。このオレンジ色は東海道線電車“湘南色”だそうです。隣には0kmポストが。山手線、品鶴線の起点が品川駅と説明書きにあります。山手線がどこからどこまでなのか、考えたこともなかったのですが、どうやら品川から新宿を経由し田端までを指すのだそうです。思わず「へぇ~」と言ってしまいました。
次に向かうのは9・10番線です。ホームにある大きな車輪は「安全記念碑」。そして品川駅開業130周年と鉄道の日にちなんで、復元・設置された「希望の鐘」です。重厚なオブジェは鉄道の歴史や文化を彷彿とさせます。品川駅、奥が深いですね。あらゆる視点で楽しんでみてはいかがでしょうか。

「安全記念碑」 写真

米国では「牛追いの鐘」と呼ばれていて、野牛と衝突しないように鳴らしながら走行していたのだそうです。

「光の情景」 写真

一口にガラスといっても、表面の質感はさまざま。ガラスの色も複雑に絡み合っています。ガラスをつなぐ線も細く太く、まるで生き物のようです。

Message from Hideho Aso

「光の情景」を想う

私は、油絵を専攻していましたが、大学3年のとき、石やガラスの小片で表現するモザイクという手法に出会い、その豊かな表情に魅了されました。石なんてとお思いになるでしょうが、石にもいろいろな色があり、面持ちがあるのです。以来、手段を決めつける必要はないと考え、あらゆる形で表現してきました。

JR品川駅の「光の情景」は、株式会社NKB ・パブリックアート本部の制作を担う工房であるクレアーレとの共同制作です。パブリックアート制作で私が心がけているのは、そこに存在する人々の背景になること。自己主張はせず、その場にふさわしい情景を作り出したいと思っています。特に「光の情景」が設置されるのは、不特定多数の人が通る場所。足を止めてアートを鑑賞するような場所ではないので、妨げにならないようなデザインをと考えました。

原図を描いて、原寸図を作り、職人さんと打ち合わせしながら色付けをしてと、大勢の方の協力がなければ完成できませんでした。今でも感謝しています。時代の移り変わりとともに無くなってしまうアートも少なくないなか、今まで大切にしていただいていることもありがたいですね。

麻生秀穂(あそうひでほ)
造形美術家。静岡県出身。東京藝術大学在学中にモザイクに出会い、ステンドグラス制作の道へ。東京藝術大学名誉教授。現在は岐阜県在住。災害瓦礫の有効活用を提案する等の活動を続けている。制作した作品は、帝都高速度交通営団(現 東京地下鉄株式会社)本社ビル、静岡県沼津千本プラザ、静岡県沼津市立病院ロビー モザイク壁画・水と石の造形、静岡県浜松市浜松城公園 石舞台等多数。

JR品川駅

港区高輪3丁目