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東京プリンスホテルと東京タワーを背景にした有章院霊廟二天門。東京の歴史を感じられる眺め。
増上寺の北側、東京プリンスホテル前に建つ「有章院霊廟二天門」。徳川家霊廟ならではの華やかな装飾が残る歴史的遺構で、国の重要文化財に指定されています。MINATOシティハーフマラソン2019のマラソンコース18km付近に位置しています。
江戸幕府第7代将軍の徳川家継はわずか5歳で歴代最年少の将軍となり、その4年後には病気のため短い生涯を終えました。家継の院号は「有章院」。1717年につくられた有章院を祀る霊廟には色とりどりで華やかな装飾があしらわれ、その豪華さは「日光東照宮に劣らない」と称されたほど。有章院霊廟の入口となる門が、有章院霊廟二天門です。
有章院霊廟二天門につながる敷地には、かつてはほかの徳川家将軍たちの霊廟や宝塔も建ち並んでいました。当時の建築技術の粋を集めた極彩色の建造物が並ぶさまは、さぞ荘厳な景色だったことでしょう。ところが第二次世界大戦の空襲で大部分が焼失してしまいます。かろうじて焼失をまぬがれた有章院霊廟二天門も、1960~62年に改修されたのを最後に、風食が進んでいました。さらに近年は日比谷通りの交通量増加による排気ガス等の影響もあり、漆の劣化も進行していました。そこで2015年8月、実に50年以上ぶりの改修工事がスタート。約4年間の大がかりな工事を経て、今年7月、色鮮やかに復元された姿でよみがえったのです。
門には港区指定文化財の二天像が安置されています。今回の改修にあわせ二天像の修理を行ったところ、像の内部に墨書が発見され、像の作者は京都の仏師であった廿八世法橋康伝(ほうきょうこうでん)とその弟子だということが確認できました。
美しく塗り直された屋根。漆で塗装するため劣化が早く、屋根はすでにマットな質感に変わっています。雨や日が当たる部分と当たらない部分のツヤ感の違いを、ぜひ現地で見比べてみて。
今回の大改修は「江戸時代の姿を忠実に再現する」が命題でした。改修には江戸時代に使われていたものとほぼ同じ素材を使っています。上塗りの漆は希少な国産100%で、材料がなかなか手に入らず工事を1年間ストップしたそう。屋根は新しく葺き直す予定でしたが、もともと使われていた銅板の瓦が1ミリ以上と厚く(通常は0.4ミリ程度)、傷みが少なかったことから、計画を変更してそのまま使うことに。当時のままに黒漆が塗られた美しい屋根ですが、その下の銅板は300年前から一度も葺き替えられていないということになります。
改修工事中の屋根の様子。極力、300年前の銅板をそのまま活用。
(左)有章院霊廟二天門をくぐった先にあった、
勅額門(ちょくがくもん)。戦災で焼失した建造物のひとつ。
(右)1873年頃の有章院霊廟勅額門の内景。
(写真:『平成21年度 港区立港郷土資料館 特別展 増上寺
徳川家霊廟』所載)
ひっそりとたたずんでいた有章院霊廟二天門ですが、改修後は、華やかな装飾と鮮やかな朱色が美しく、通りかかった人々が門の写真を撮る姿もよく見られるようになりました。将来的には、さらに門の周辺を整備する案もあり、調整中とのこと。MINATOシティハーフマラソン2019とともに楽しめる、日比谷通り沿いの注目スポットです。
古びた木肌が見えている改修前の門柱。
金具は職人がひとつひとつ手作りで製作したのち、何回も丁寧に鍍金(ときん)をほどこしました。
改修後の有章院霊廟二天門。
細かく再現された金具の装飾にも注目!
協力/公益財団法人文化財建造物保存技術協会、株式会社プリンスホテル