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港区探訪

港区‒自慢の宝ものを訪ねて

第1回 大倉集古館

港区の銭湯

華やかに装飾された2階展示室。天井には龍、柱の上部にはしゃちほこの原型といわれる幻獣、吻(ふん)の姿が。

現存する日本最古の私立美術館で、東洋美術の粋に触れる

各国大使館が点在するオフィス街においてひときわ存在感を放つ大倉集古館。収蔵された美術品の数々はもちろん、国の登録有形文化財である建物にも見応えがあります。

文化財の海外流出を食い止めたい!大実業家の想いが詰まった美術館

1917年に設立された大倉集古館は日本最初の財団法人の私立美術館。平安時代の「古今和歌集序」など国宝3件を含む、日本や東洋各地の美術品約2,500件が収蔵されています。これらの美術品を収集したのは、明治・大正時代に活躍した実業家の大倉喜八郎と、その跡を継いだ喜七郎。大成建設やサッポロビールなど今も残る多くの企業の創立者である喜八郎は、経営に腕を振るう一方、日本の貴重な文化財が海外に流出することを嘆いて古美術の収集を始めました。はじめは自邸内に美術館を建てコレクションを公開していましたが、やがて文化財、土地、建物を寄付して財団法人を立ち上げ、大倉集古館が誕生しました。その後、関東大震災によって当初の建物や陳列中の作品の多くが失われてしまったものの、災害を免れた倉庫の収蔵品を中心として1928年に再び開館。父の遺志を継いだ喜七郎の尽力により近代絵画も充実しました。

東洋美術のデザインをとり入れた建物にも注目

再開館にあたり、東京帝国大学教授であった伊東忠太の設計により耐震耐火の展示館が建築されました。日本と東洋の建築史家でもあった伊東は、大倉集古館のあちこちにアジアの美術に関連する文様やモチーフを散りばめました。これまでに3回の大規模な改修工事が行われていますが、今でも展示館の外観や内装には竣工当時のデザインが残されており、美術品とともに建築の美しさも堪能できる空間となっています。

御観兵榎(ごかんぺいえのき) 関東大震災前の大倉集古館(大倉邸)。当時最先端の技術を用いた美術館で消火設備も備えていましたが、震災時は断水のため消火が叶いませんでした。

明治記念館 産業の発展に力を尽くした大倉喜八郎(1837~1928)。文化財を保護するため、はじめは高利貸しに借金をして美術品を買い求めたそうです。

聖徳記念絵画館 寄木造りの金剛力士像は鎌倉~室町時代のもの。古い収蔵品目録の一番はじめに載っている作品です。

聖徳記念絵画館 水戸黄門として知られる徳川光圀が、四代将軍・家綱の霊廟に寄進した燈籠。

聖徳記念絵画館 5世紀頃に中国でつくられたと考えられる獅子の像。三国志に登場する曹操の家に置かれていたという説も。

聖徳記念絵画館 清時代の中国でつくられた韋駄天立像。

葬場殿趾 明治神宮野球場 1928年に大倉集古館が再開館する際、中国から取り寄せた仏像。当時は世界最古の仏像と考えられていました。中国の少数民族が一族の繁栄を願ってつくったものと思われ、背面や側面にも兵士や侍女などのレリーフや関係者の名前がぎっしりと彫られています。

明治神宮野球場 東洋の雰囲気がたっぷりの2階テラス。一休みできるベンチも用意されています。

日本最古の車道用アスファルト 「収蔵品の中にはまだ調査が進んでいないものも多く、調査のたびにオッと驚くような発見があります。作品の魅力が伝わるよう展示を工夫していきますので、ぜひ足をお運びください」と、副館長の髙橋裕次さん。

外苑にイチョウを植樹している様子 建物の周囲にも彫刻作品が並んでいます。

大倉集古館

https://www.shukokan.org/
住所:港区虎ノ門2-10-3
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、展示替期間、年末年始
アクセス:東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅徒歩5分、日比谷線「神谷町」駅徒歩7分、「虎ノ門ヒルズ」駅徒歩8分、銀座線・南北線「溜池山王」駅徒歩10分、銀座線「虎ノ門」駅徒歩10分

大倉集古館 こぼれ話

個性的な建築物を多数生んだ近代建築の巨匠、伊東忠太

大倉集古館の現在の建物を設計したのは、近代日本を代表する建築家であり建築史家の伊東忠太(1867~1954)。世界各国を歴遊して仏教遺跡などを調査し、日本と東洋の建築史を初めて体系的に樹立した人物です。平安神宮、築地本願寺、湯島聖堂など独創性あふれる建築作品を数多く残しましたが、その中でも美術館は大倉集古館が唯一です。妖怪好きで、化物とは好奇心に刺激された人間が空想を重ねて創造すると定義した伊東は、空想上の動物をモチーフにした装飾を自らの作品に多用し、幻想的な空間を作り上げました。伊東が愛した幻獣たちの姿を、大倉集古館でも随所に見ることができます。
大倉集古館の展示室は、館蔵品の中心をなす日本と東洋の美術作品にマッチするよう、中国古典様式をとり入れて設計されました。1階には四角い柱を、2階には円柱を置くなど、/フロアによって表情が異なるのもユニークです。

明治記念館 明治記念館 展示室2階の天井には、龍などの美しいレリーフが施されています。

明治記念館 明治記念館 階段の親柱には、丸みがあってかわいらしい獅子の彫刻が5体。古い時代の獅子や麒麟には羽根がありますが、この獅子にも小さな羽根が付いています。