ここから本文です。

みなと区民大学

港区内の各大学との共催で開催

北里大学 vol.3
今回のテーマ:薬は水で飲まなければならないの?

通常、薬はコップ1杯(180〜200㏄)の水、または白湯(沸騰させたお湯を冷ましたもの)で飲みます。薬は体内で溶けてから吸収され、様々な組織に分布して効果を発揮し、その後代謝されて体外に排出されます。少量の水で飲んだり、水なしで飲むと薬がよく溶けないので、十分に吸収されず期待する効果が発揮されません。また水なしで薬を飲むと、のどや食道にひっかかり、そこで溶けだした薬の成分が粘膜に炎症や潰瘍を起こすことがあります。
「薬は水で飲まなければいけないの?」、「お茶や牛乳で飲んではいけないの?」、「胃の中では他の食べ物や飲み物と混ざってしまうのだから、水で飲まなくてもいいのでは?」と考える方もいるでしょう。今回は、薬を水以外の飲み物で飲んだ時の影響について、お話ししたいと思います。

●カフェインを含む飲み物(コーヒー、紅茶、緑茶など)

カフェインは中枢神経を刺激する作用があります。気管支を拡張する作用を持つ喘息の治療薬テオフィリンなどは同様な作用を持つため、カフェインを含む飲み物で服用するとこの作用が増強され、不眠やいらいら、ふるえなどが起こることがあります。また睡眠導入剤や安定剤は、カフェインの眠気覚ましなどの興奮作用により、薬の効果が弱まることがあります。コーヒーやお茶で薬を飲むのは避けましょう。ドリンク剤の中にはカフェインを多く含むものもあります。薬を毎日飲んでいる人は注意が必要です。

●牛乳

牛乳にはカルシウムが多く含まれますが、薬の成分が牛乳の中のカルシウムと結合してしまい、薬の吸収が低下し、十分な効果が得られない場合があります。ニューキノロン系やテトラサイクリン系の抗菌薬などです。また薬の中には胃ではなく、腸で溶けるようにコーティング加工された薬がありますが、牛乳はこれらの薬の吸収にも影響を及ぼします。牛乳はアルカリ性のため胃の酸性度を弱め、本来腸で溶ける薬が胃で溶け始めてしまい、効果が減弱されることがあります。

●グレープフルーツジュース

血圧降下薬のうちカルシウム拮抗薬は、グレープフルーツジュースによって薬の代謝が低下し、薬の効果が増強したり、副作用が出てしまうことがあります。血圧が下がり過ぎてしまったり、めまいや頭痛などの症状を引き起こすことがあります。これはグレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリンが、小腸にある薬を代謝する酵素(チトクロームP450の一つであるCYP3A4)の働きを抑えてしまうことが原因です。影響は数日続くことがあるので、薬を服用している期間は、グレープフルーツジュースを避けることが望ましいです。

●アルコール

アルコールも多くの薬も肝臓で代謝されます。薬とアルコールを一緒に服用すると、薬の代謝が遅くなり、血液中の薬の濃度が上昇し、作用が増強することがあります。特に睡眠薬や安定剤、抗アレルギー薬では、強い眠気や意識障害を起こすことがあり、大変危険です。

このように薬に影響を及ぼす飲み物は多くあります。薬を安全に使うために、薬はコップ1杯の水で飲むようにしましょう。

参考
・日本製薬工業協会HP くすりの情報Q&A
 第3章 くすりの上手な使い方
・RAD -AR®くすりの適正使用協議会HP
 くすりと食品の相互作用

プロフィール

久保田理恵(くぼたりえ)先生

久保田理恵(くぼたりえ)
北里大学薬学部臨床薬学研究・教育センター臨床薬学教育部門 教授。北里大学薬学部、同大学院薬学研究科を修了後、北里研究所病院薬剤部で薬剤師として勤務。その後、北里大学薬学部に助手として着任し、現在に至る。

写真:降圧薬(Ca拮抗薬あぜるにアゼルニジピン)を水とグレープフルーツジュースで飲んだ場合の血中濃度の変化 写真:コップ1杯のお水(水色の線)およびグレープフルーツジュース(灰色の線)で「アゼルニジピン8mg」を飲んだ場合の血中濃度の変化

出典:Hirashima H, et al: Jpn J Clin Pharmacol Ther. 37:127-133 2006
日本製薬工業協会HP くすりの情報Q&A 第3章 くすりの上手な使い方 より