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みなと区民大学

港区内の各大学との共催で開催
北里大学 薬学部教授 鈴木雄介先生

北里大学 薬学部教授

鈴木雄介(すずきゆうすけ) 先生

北里大学 vol.4
今回のテーマ
「新型コロナウイルス感染症に関する誤解」

Kissポート財団と港区内の各大学との共催で開催している「みなと区民大学」。 昨年度から新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、さまざまな手法を取り入れながら、新しい展開を模索しております。 今回もその一環として、共催大学のひとつ、北里大学のご協力のもと「誌面みなと区民大学」を本誌9月号から掲載しています。 今年度のテーマは「暮らしに役立つ医療の知識と健康で豊かな人生のための基礎知識2021」。 健康に役立つ情報として、安全安心な生活に向けての一助としてくださいね。

「新型コロナウイルス感染症に関する誤解」

2019年の末に突然始まって以降、瞬く間に世界中に広まった新型コロナウイルス感染症。国内でも様々な議論や憶測を呼び報道されない日は無いほどです。ここでは新型コロナウイルス感染症に関して一般の方が誤解しやすい点を考えてみたいと思います。

感染力はそれほどでもない?

1人の感染者が治るまでに何人に感染させるかを示す基本再生産数(R0)は新型コロナウイルスで当初2~3、デルタ株では5~9とも言われます。かなりの感染力ではありますが「はしか」をおこす麻疹ウイルスの12~18よりは低いです。しかし新型コロナウイルス感染症は30%程度は無症状で、さらに症状が出る前の2日間は感染可能期間なので、感染者のうち4割位は検査しなければ感染に気付かずに他人へ感染させるおそれがあります。このため他の病気に比べて極めて拡がりやすいのです。

ただの風邪でしょうか?

新型コロナウイルス感染症の重症度は様々です。ウイルスの変異がよく取り沙汰されますが、同時期でも無症状から重症・死亡まで症状はまちまちです。インフルエンザなら大半の人で高熱が出る病気だと理解しやすいですが、新型コロナウイルスは無症状の感染者も多いため「大抵は何ともない」と解釈する人も、死亡者が1%も出るので「とても重い病気だ」と考える人もいます。どちらも間違いではありません。ただし季節性インフルエンザの致死率は0・1%以下とされ、従来のコロナウイルスのかぜ症状では死亡率はさらに低いと思われ、新型コロナウイルス感染症とはまったく様子が異なります。

治療薬に関する誤解

治療薬についてはニュース等でご存じの方も多いと思います。ファビピラビル(商品名アビガン)やシクレソニド吸入(商品名オルベスコ)などが初期に期待され話題となりましたが、現在承認されていません。誰かが混乱に乗じて誤った情報を流したのでしょうか?おそらくそうではなくアビガンやオルベスコが良く効いた人も一定数いたのだと思います。しかし効かない人や悪化する人が多いため、有効な人を事前に見分ける方法が見つかるまでは、分が悪くてお勧めできないのです。現在承認されているレムデシビルはどうでしょうか。ある治験では治療した人は偽薬(プラセボ)より4日早く(平均11日間で)治りました。しかし治療効果は人それぞれのため予知できません。レムデシビルを投与した方が早く治る人が多いので治療しておいた方が有利だろうということです。
レムデシビルや中和抗体(カクテル療法)には抗ウイルス効果がありますが、実際に有効となる条件は肺炎の有無、酸素が必要か、などにより限られます。デキサメタゾンやバリシチニブは過剰な免疫反応を抑えるものなので、軽症者では効果がなく反対にウイルスの増殖を促して病状が悪化するでしょう。トシリズマブも同様です。新型コロナウイルス感染症では血栓塞栓症(血液が凝固して血管内につまること)が起こりやすく抗凝固剤も使用されますが、不必要に投与すれば大出血の危険だけが増します。承認された薬でも有効な条件を考えずむやみに投与すれば副作用で状態悪化する可能性の方が大きくなってしまうのです。

新型コロナウイルス感染症の予防

密を避けること、手洗い、マスクなどが推奨されています。新型コロナウイルスは飛沫・接触感染で伝播するためおそらく有効ですが科学的に証明することは難しいので議論の的となります。なおマスク着用は自分の感染防御よりも他人への感染防止に有効と考えられるため「自分は感染が怖くない」とマスク着用しないのは筋違いです。他方、「自分は絶対感染していない」と根拠なく主張する人は危険を冒す分だけ一般人よりも感染している可能性が高そうです(実感としてはありますが証明は無理でしょう)。
ワクチンは科学的に有効です。ただ「ワクチンパスポート」という言葉の響きなどから「抗体ができれば新しい変異株が出るまで大丈夫」と誤解する人もいますが、ワクチンも有効例と無効例とにはっきり分かれるものではありません。デルタ株の出現でワクチンの効果が90%から半分以下になったなどと言われますが、初期の段階でも感染者と10回接触したり10倍濃厚に接触すればワクチンの効果は打ち消されたでしょう。効果が半分でも、ワクチン接種後の2人が接触するのと未接種どうしの2人では感染が起こる確率は約4倍違います。現状では重症化予防効果もあり推奨されていますが、発熱などの副反応が他のワクチンに比べて非常に多いため、もし感染が完全に鎮静化すれば副反応の危険だけが際立ってしまい逆にお勧めできなくなってしまいます。

新型コロナウイルス感染症に関しては特に誤解から社会に混乱を生じていることもあると感じており気付いた点を記しました。皆様のご協力により感染が一日も早く終息することを願っております。

プロフィール

鈴木雄介(すずきゆうすけ)

鈴木雄介(すずきゆうすけ)
慶應義塾大学医学部卒。2015年より北里大学北里研究所病院呼吸器内科部長。2018年より同病院長補佐。2021年4月より同感染管理室室長、北里大学薬学部臨床医学(生体制御学)教授。